輸入企業にとって、為替レートの変動は「利益のボラティリティ(不確実性)」そのものです。1ドル=130円で計算していた原価が、決済時に150円になれば、それだけで15%以上のコスト増となります。これを防ぐのが為替ヘッジの考え方です。
1. 経営者が持つべき「為替の3つの姿勢」
為替リスクに対して、経営者は以下のいずれかのスタンスを明確にする必要があります。
- オープン(非ヘッジ): 為替予約をせず、その時のレートで支払う。「円高になればラッキー」というスタンスだが、中小企業にはリスクが高すぎる。
- フルヘッジ: 契約した瞬間に、全額分を将来のレートで固定する。利益は確定するが、円高メリットも享受できない。
- パーシャルヘッジ(部分ヘッジ): 50%だけ予約を入れ、残りは実勢レートに任せる。リスクを抑えつつ柔軟性を持たせる手法。
2. 代表的な為替リスク管理手法
実務で使われる主なツールは以下の3つです。
① 為替予約(Foreign Exchange Forward)
最も一般的で強力な手法です。銀行と「将来の特定の日に、1ドル=〇〇円で、〇万ドル買う」という契約を結びます。
- メリット: 手数料が実質的にスプレッド(為替差)に含まれ、コストが分かりやすい。原価が1円単位で確定する。
- デメリット: 一度結ぶと、どんなに円高になってもキャンセルできない(義務が生じる)。
② 通貨オプション(Currency Option)
「〇〇円で買う権利」を、手数料(プレミアム)を払って購入します。
- メリット: 円安になれば権利を行使して安く買い、円高になれば権利を放棄して市場の安いレートで買うことができる。「いいとこ取り」が可能。
- デメリット: 保険料のような「掛け捨てのプレミアム」が発生する。
③ マリー(Marrying)
輸出も輸入も行っている企業が、輸出で得たドルをそのまま輸入の支払いに充てる手法です。
- メリット: 円に替える際の手数料や為替リスクを完全にゼロにできる。
3. 実務担当者のための「為替予約」タイミング
為替予約を入れるタイミングには、大きく分けて3つのフェーズがあります。
- 成約時: 海外サプライヤーと価格合意した瞬間に予約。最も保守的で、原価計算(1-3章)と完全に一致させることができます。
- 船積み時: B/Lが発行されたタイミング。貨物が確実に発送されたことを確認してからヘッジします。
- 決済前: 支払いの数日前〜数週間前。直近のトレンドを見て判断しますが、予測を外した時のダメージは最大です。
4. 【トレードビズの視点】「円建て決済」という選択肢
そもそも為替リスクを負わない方法として、**「円建て(JPY Quote)」**で契約する交渉も有効です。
- 中国や東南アジアのサプライヤーの中には、円建て決済を好む企業も増えています。
- ただし、相手側が為替リスクを負う分、あらかじめ高めのレートを価格に上乗せしてくることが多いため、ドル建て+自社予約と比較する「相見積もり」が必須です。
5. 経営判断:いくらになったら予約するか?(社内ルールの策定)
「もう少し円高になるかも…」と欲を出すのが最大の失敗要因です。
- 「予算レート」の策定: 今期の輸入原価として耐えられる「限界レート(例:145円)」を決め、それを超えたら自動的に半分予約する、といった機械的なルールを作ることが、安定経営のコツです。
まとめ:為替管理は「利益の固定」である
為替で儲けようとするのは「投機」です。輸入業の本質は、商品の価値で利益を出すことであり、為替管理はその利益を「守る」ための作業です。 第1章から第4章まで積み上げてきた「利益のシミュレーション」を、最後の最後で為替に壊されないための仕組みを作りましょう。