EPA活用の鍵を握る「サプライヤー・リレーション」実務ガイド

EPA(経済連携協定)による関税削減メリットを享受するには、自社製品の原産性を証明する必要があります。しかし、多くの企業が直面する最大の壁が「サプライヤーからの原産地情報入手」です。

特に中小企業にとって、大手サプライヤーや海外メーカーから必要な情報を引き出すことは容易ではありません。本記事では、10年以上のEPA実務経験から得た、サプライヤーとの効果的なコミュニケーション術と、営業秘密を守りながら原産性判定を進める実践的手法を解説します。


1. なぜサプライヤー情報が必要なのか?

原産地規則の基本構造

EPA適用には、製品が「原産品」であることの証明が必要です。原産地規則は主に以下の3つ:

  1. 完全生産品(その国で完全に生産された産品)
  2. 原産材料のみから生産された産品
  3. 非原産材料を使用するが、実質的変更基準を満たす産品

実務上、ほとんどの工業製品は「3」に該当し、非原産材料の特定が不可欠です。

必要な情報とは

サプライヤーから入手すべき主な情報:

情報項目用途入手難易度
原産国原産材料か非原産材料かの判別★☆☆
HSコード(6桁または9桁)関税分類変更基準の判定★★☆
価格(FOB等)付加価値基準の計算★★★
原材料構成累積規定の適用判断★★★
製造工程情報加工工程基準の判定★★★

実務上の課題:

  • サプライヤーはEPAの重要性を理解していない
  • 「機密情報」として開示を拒否される
  • 回答に数週間~数ヶ月かかる
  • 不正確な情報が提供される

2. サプライヤーへの依頼戦略

【戦略1】依頼前の準備:社内体制の整備

サプライヤーへの依頼前に、社内で以下を明確にします:

✅ チェックリスト

  •  自社のEPA活用方針の明確化(対象協定・対象製品)
  •  必要情報の優先順位付け(最低限必要な情報は何か)
  •  社内担当部署の決定(購買部門との連携)
  •  依頼スケジュールの設定(余裕を持った期限設定)
  •  サプライヤー分類(重要度・関係性による優先順位)

【戦略2】サプライヤーの分類と優先順位サプライヤーに闇雲にメールを送るのは非効率です。

✅ サプライヤーの分類:

  • 重要度(高): 主要部材。断られたら判定不能になる相手 → 直接訪問して説明。
  • 重要度(低): 汎用部材。代わりが効く相手 → 標準の依頼文書を送付。
  • Win-Winの提示: 「関税が安くなれば弊社の売上が伸び、御社への発注量も増えます」というメリットを明確に伝えます。

3. 依頼文テンプレートと実践的な書き方

【テンプレート1】初回依頼文(日本語版)

件名:原産地情報ご提供のお願い(EPA活用のため)

株式会社○○○○
購買部門 ご担当者様

平素より格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。
株式会社△△△△ 貿易管理部の□□と申します。

この度、弊社では経済連携協定(EPA)を活用した輸出業務の拡大を
進めており、貴社よりご供給いただいております部材の原産地情報を
ご提供いただきたく、ご連絡申し上げました。

【背景と目的】
EPAは、加盟国間の関税を削減・撤廃する国際協定です。弊社製品に
EPA特恵税率を適用するため、使用部材の原産地を特定する必要が
ございます。

【ご提供いただきたい情報】
別紙「原産地情報依頼書」をご参照ください。以下の情報をお願いします:

1. 製品の原産国(製造国)
2. HSコード(6桁レベル)※可能であれば
3. 原産地証明の可否(第三者証明または原産地申告)

【機密保持について】
ご提供いただいた情報は、EPA原産性判定の目的のみに使用し、
厳格に管理いたします。必要に応じて秘密保持契約(NDA)の
締結も可能です。

【ご回答期限】
20XX年XX月XX日までにご回答いただけますと幸いです。

【弊社のメリット】
EPA活用により、輸出先での価格競争力が向上し、貴社部材の
需要増加にもつながる可能性がございます。

ご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
何卒ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。

───────────────────────────
株式会社△△△△ 貿易管理部
担当:□□□□
TEL: XXX-XXXX-XXXX
Email: xxxx@example.com
───────────────────────────

ポイント解説:

✅ 件名の工夫 「原産地情報」と明記することで、開封率を高める
✅ 背景説明 EPAを知らないサプライヤーも多いため、簡潔な説明を入れる
✅ 具体的な依頼内容 「原産地情報を教えてください」だけでは不明確。具体的項目を列挙
✅ 機密保持への配慮 サプライヤーの懸念を先回りして解消
✅ 期限の明示 「至急」ではなく具体的な日付を設定(2〜4週間程度が適切)
✅ Win-Winの提示 一方的な依頼ではなく、サプライヤーのメリットも示唆


【テンプレート2】原産地情報依頼書(記入フォーマット)

【原産地情報依頼書】

貴社名:_______________
ご担当者名:____________
回答日:20XX年XX月XX日

────────────────────────────────

■ 対象製品情報

弊社品番:___________
貴社品番:___________
製品名称:___________

────────────────────────────────

■ ご回答いただきたい項目

【必須項目】
□ 1. 原産国(製造国)
   回答:_____________

   ※複数国で製造している場合、主な製造国をご記入ください

□ 2. 原産地証明の対応可否
   □ 対応可能(第三者証明書を発行できる)
   □ 対応可能(原産地申告文を提供できる)
   □ 対応不可
   □ 要相談

────────────────────────────────

【任意項目】※ご回答可能な範囲で結構です

□ 3. HSコード(6桁レベル)
   回答:_____________

□ 4. 主要原材料の原産国
   原材料名:_____ 原産国:_____
   原材料名:_____ 原産国:_____

□ 5. 製造工程(簡単な説明)
   回答:_________________

────────────────────────────────

■ 継続的な情報提供について

今後、原産国や製造工程に変更があった場合、
事前にご連絡いただけますか?

□ はい、連絡します
□ いいえ、対応できません
□ 要相談

────────────────────────────────

■ ご質問・ご懸念事項

(ご自由にご記入ください)

_______________________

────────────────────────────────

ご協力ありがとうございます。
ご不明な点は担当(□□ TEL: XXX-XXXX-XXXX)までお問い合わせください。

フォーマット設計のポイント:

✅ 段階的な情報要求 必須項目と任意項目を分け、心理的ハードルを下げる
✅ チェックボックス形式 記述式より回答しやすく、回答率が向上
✅ 具体例の提示 「原産国」だけでなく「製造国」と併記し、混乱を防ぐ
✅ 継続性の確認 一度きりではなく、変更時の連絡体制も構築


【テンプレート3】回答が得られない場合のフォローアップ文

件名:【再送】原産地情報ご提供のお願い

株式会社○○○○
ご担当者様

お世話になっております。株式会社△△△△の□□です。

先日(XX月XX日付)でお送りしました「原産地情報依頼」について、
ご多忙のところ恐縮ですが、進捗状況をお伺いできますでしょうか。

【ご回答が難しい場合のご提案】

もし詳細情報のご提供が難しい場合は、以下の最低限の情報のみでも
結構です:

✓ 原産国(製造国)のみ
✓ 「日本製」「中国製」など、国名のみ

また、ご回答が難しい理由(機密情報に該当、社内手続きに時間を要する等)
をお聞かせいただければ、代替案を検討いたします。

【オンライン説明会のご案内】

ご希望であれば、EPA制度と必要情報について、オンラインで
簡単にご説明させていただくことも可能です。
(所要時間:15~20分程度)

ご都合の良い日時をお知らせください。

引き続き何卒よろしくお願い申し上げます。

株式会社△△△△ □□

フォローアップのポイント:

✅ 柔軟な姿勢 「全部答えてください」ではなく、最低限の情報でも可とする
✅ 理由の確認 一方的な催促ではなく、困難な理由を理解しようとする姿勢
✅ サポート提供 説明会の提案など、サプライヤーの負担軽減策を提示


4. 交渉術:サプライヤーの懸念を解消する

よくある拒否理由と対応策

【拒否理由1】「機密情報なので開示できない」

対応策:

A. 必要最小限の情報で対応できることを説明

「詳細な原材料配合比率や製造ノウハウは不要です。
必要なのは『原産国』と『HSコード(大分類)』のみです。
これらは通関書類にも記載される一般的な情報です。」

B. 段階的開示の提案

【3段階アプローチ】
Step 1: 原産国のみ開示
→ EPA適用可能性を判断
Step 2: 適用可能なら、HSコード(6桁)開示
→ 原産地規則を確認
Step 3: 最終的に必要な情報のみ追加依頼
→ 最小限の追加情報

C. 秘密保持契約(NDA)の締結提案 → 次セクションで詳述


【拒否理由2】「社内手続きが煩雑で対応できない」

対応策:

A. 回答しやすいフォーマット提供

  • チェックボックス形式
  • 選択肢を用意(例:原産国を選択肢から選ぶ)
  • Excel形式で製品リストを提供し、該当欄に記入するだけ

B. 段階的な対応の提案

「まずは主要5品目のみでも結構です。
その後、必要に応じて追加でお願いします。」

C. 訪問説明の申し出

「弊社から伺い、EPA制度と必要情報について
ご説明させていただくことも可能です。」


【拒否理由3】「EPA制度がわからない、メリットがわからない」

対応策:

A. 簡潔な説明資料の提供

【1分でわかるEPA】

Q: EPAとは?
A: 加盟国間で関税を下げる国際協定

Q: なぜ原産地情報が必要?
A: 「その国で作られた」証明のため

Q: 貴社のメリットは?
A: 弊社の輸出増加 → 貴社部材の発注増加の可能性

B. 具体的な数字の提示

「EPA活用により、弊社の○○製品の輸出価格を5%削減できます。
これにより年間販売数量が20%増加する見込みで、
貴社部材の発注額も年間○○万円増加する可能性があります。」


【拒否理由4】「他の顧客からこんな依頼は受けたことがない」

対応策:

A. 業界トレンドの説明

「EPA活用は、自動車・電機業界を中心に急速に広がっています。
今後、他の顧客からも同様の依頼が増える可能性があります。」

B. 先行対応のメリット提示

「今回の情報整備により、今後の他顧客対応も容易になります。
EPA対応可能なサプライヤーとして、競争優位性も高まります。」

C. 実例の紹介(可能な範囲で)

「同業の○○社様では、すでに原産地情報の提供体制を
構築されており、EPA対応サプライヤーとして評価されています。」


交渉を成功させる7つのポイント

1. タイミングを選ぶ

  • 新規取引開始時や契約更新時は情報入手のチャンス
  • 通常の発注とは別のタイミングで依頼(購買担当者の負担軽減)

2. 適切な窓口を見極める

  • 営業担当者経由 vs. 購買部門直接
  • 大企業の場合、「貿易管理部門」が存在することも

3. 継続的な関係構築

  • 一度きりではなく、定期的な情報更新の仕組み作り
  • 「原産地情報管理台帳」の共有

4. インセンティブの提示

  • 発注量増加の見込み
  • 長期契約への移行
  • 新規案件の優先発注

5. 複数のアプローチを並行

  • 文書依頼 + 電話フォロー + 対面訪問
  • 購買部門 + 営業部門 + 技術部門へのアプローチ

6. 業界団体の活用

  • 業界全体でサプライヤーへの情報提供を依頼
  • 標準フォーマットの業界統一

7. 代替案の検討

  • どうしても情報が得られない場合、別サプライヤーへの切り替え検討
  • EPA対応可能なサプライヤーの新規開拓

5. 秘密保持契約(NDA)のポイント

なぜNDAが必要か?

原産地判定には、以下の機密情報が含まれる可能性があります:

  • 原材料配合比率(レシピ)
  • 製造工程の詳細(技術ノウハウ)
  • 調達先情報(サプライチェーン)
  • 原価情報(価格競争力)

サプライヤーの懸念を払拭し、スムーズな情報提供を実現するため、適切なNDAの締結が重要です。


EPA用NDA条項のポイント

【ポイント1】目的の限定

条文例:

第○条(秘密情報の利用目的)

甲(情報受領者)は、乙(情報開示者)から開示された秘密情報を、
以下の目的にのみ使用するものとする:

(1) 経済連携協定(EPA)に基づく原産地判定
(2) 原産地証明書または原産地申告文の作成
(3) 税関等の権限ある機関からの検認対応

甲は、上記以外の目的で秘密情報を使用してはならない。

ポイント解説: 

✅ 利用目的を「EPA原産性判定」に明確に限定
✅ 商品開発、競合分析などへの流用を禁止
✅ サプライヤーの懸念を具体的に解消


【ポイント2】開示範囲の限定

条文例:

第○条(秘密情報の開示範囲)

甲は、秘密情報を以下の者にのみ開示できるものとする:

(1) 甲の従業員のうち、EPA業務に直接関与し、
    本契約と同等の守秘義務を負う者
(2) 甲が委託する通関業者または貿易コンサルタント
    (事前に乙の書面による承諾を得た場合)
(3) 日本国政府機関(税関、経済産業省、商工会議所等)
    ただし、法令に基づく提出が必要な場合に限る

甲は、上記(2)の第三者に開示する前に、当該第三者に対して
本契約と同等の守秘義務を課すものとする。

ポイント解説: 
✅ 社内の開示者を「Need to Know」原則で限定
✅ 外部専門家への開示条件を明確化
✅ 税関検認時の開示を適法に位置づけ


【ポイント3】秘密情報の定義

条文例:

第○条(秘密情報の定義)

本契約において「秘密情報」とは、EPA原産性判定のために
乙が甲に対して開示する以下の情報をいう:

(1) 製品の原産国に関する情報
(2) 使用原材料の品目、原産国、HSコード
(3) 製造工程に関する情報
(4) その他、乙が「秘密」と明示して開示した情報

ただし、以下の情報は秘密情報に該当しないものとする:
(a) 開示時点で既に公知の情報
(b) 開示後、甲の責めに帰すべき事由によらず公知となった情報
(c) 甲が第三者から適法に取得した情報
(d) 甲が独自に開発した情報

ポイント解説: 
✅ EPA業務に必要な情報のみを秘密情報として定義
✅ 公知情報の除外規定で過度な制約を回避
✅ 立証責任の明確化


【ポイント4】情報の管理義務

条文例:

第○条(秘密情報の管理)

甲は、秘密情報について以下の管理措置を講じるものとする:

(1) 秘密情報を記録した文書・電子データに「機密」表示を付す
(2) アクセス権限を有する者を限定し、アクセスログを記録する
(3) 秘密情報を含む文書は施錠可能な保管庫に保管する
(4) 電子データは暗号化し、パスワード保護を行う
(5) 秘密情報の複製は必要最小限にとどめ、複製物も同等に管理する

甲は、自己の機密情報と同等以上の注意義務をもって、
秘密情報を管理するものとする。

ポイント解説: 
✅ 具体的な管理手法を列挙し、実効性を確保
✅ 「同等の注意義務」条項で柔軟性を担保
✅ データセキュリティへの配慮を明示


【ポイント5】保管期間と返却・廃棄

条文例:

第○条(秘密情報の保管期間)

甲は、秘密情報を以下の期間保管するものとする:

(1) 原則として、EPA原産性判定の完了から5年間
    ※日本の関税法に基づく帳簿保存義務に対応
(2) 上記期間経過後、乙の書面による要請があった場合、
    甲は秘密情報を返却または廃棄する

ただし、甲が法令に基づき保管を義務付けられている場合は、
当該義務の範囲内で保管を継続できるものとする。

ポイント解説: ✅ EPA検認対応に必要な保管期間(5年)を確保 ✅ 法令遵守との両立を明記 ✅ サプライヤーの懸念(無期限保管)を払拭


【ポイント6】損害賠償と責任制限

条文例:

第○条(損害賠償)

甲が本契約に違反し、秘密情報を漏洩した場合、
甲は乙に対して、これにより生じた損害を賠償する責任を負う。

ただし、甲の賠償責任の上限は、以下のいずれか低い額とする:
(1) 直近12ヶ月間の甲乙間取引額
(2) [具体的な金額:例 1,000万円]

なお、甲が法令に基づき税関等に秘密情報を提供した結果として
生じた損害については、甲は責任を負わないものとする。

ポイント解説: 
✅ 違反時の責任を明確化
✅ 責任上限を設定し、過度なリスクを回避
✅ 法令遵守による開示を免責


EPA特有のNDA条項:税関検認対応

追加条項例:

第○条(税関検認への対応)

(1) 甲の輸出先国の税関当局から、EPA原産性に関する検認
   (事後確認)の要請があった場合、甲は速やかに乙に通知する。

(2) 甲は、検認対応に必要な範囲で、秘密情報を税関当局に
   提出することができる。この場合、甲は可能な限り、
   税関当局に対して秘密情報の厳格な管理を要請する。

(3) 乙は、合理的な範囲で、甲の検認対応に協力するものとする。

(4) 検認の結果、甲のEPA適用が否認され、関税追徴が発生した
   場合であっても、乙が故意または重過失により虚偽の情報を
   提供した場合を除き、乙は責任を負わないものとする。

ポイント解説: 
✅ 検認時の情報提供を適法化
✅ サプライヤーの協力義務を規定
✅ 責任分担を明確化(虚偽情報の場合を除き免責)


NDA締結の実務プロセス

Step 1: 事前相談

  • サプライヤーにNDA締結の意向を伝達
  • 懸念事項をヒアリング

Step 2: ドラフト提示

  • 自社の標準NDAまたは上記条項を含むドラフトを提示
  • 「EPA用」であることを明記

Step 3: 交渉

  • サプライヤーの法務部門と条項を調整
  • 特に「開示範囲」「保管期間」「責任制限」は交渉ポイント

Step 4: 締結

  • 双方の権限者が署名
  • 原本を各自保管(電子契約も可)

Step 5: 運用

  • NDA締結後に原産地情報を依頼
  • 社内で秘密情報管理ルールを周知徹底

NDAなしで情報を得る工夫

どうしてもNDA締結が難しい場合の代替策:

1. 最小限情報のみ依頼

「詳細な配合比率は不要です。
以下のいずれかのみご回答ください:
□ 日本国内で製造し、主要原材料も日本産
□ 日本国内で製造しているが、一部輸入原材料を使用
□ 海外で製造」

2. 匿名化された情報の提供

「具体的な原材料名ではなく、
『非原産材料A(HSコード39.07類):20%』
といった形式でも結構です」

3. 原産地証明書の提供依頼

「原材料の詳細情報ではなく、
貴社が取得済みの原産地証明書(Form A等)の
コピーをご提供いただけますか?」


6. 継続的なサプライヤー・リレーション構築

一度きりで終わらせないために

1. 変更管理プロセスの確立

【原産地情報変更通知フロー】

サプライヤー側で変更発生

事前通知(変更の30日前)

自社で影響評価

必要に応じて代替策検討

変更後の情報で再判定

契約書への変更通知条項例:

「乙(サプライヤー)は、製品の原産国、主要原材料、
または製造工程に変更が生じる場合、変更の30日前までに
甲(バイヤー)に書面で通知するものとする。」


2. EPA対応サプライヤーの評価制度

【サプライヤー評価項目にEPA対応を追加】

従来の評価項目:
– 品質
– 価格
– 納期

追加項目:
– EPA対応度
├ 原産地情報の提供可否
├ 原産地証明の発行可否
├ 変更時の通知体制
└ EPA知識レベル

EPA対応度の高いサプライヤーを優遇することで、業界全体のEPA対応力を向上させます。


7. 実務での成功事例

【事例1】大手サプライヤーからの情報入手

状況:

  • 電子部品メーカーA社(従業員50名)
  • サプライヤー:大手化学メーカー(従業員数千名規模)
  • 当初、「機密情報」として開示拒否

アプローチ:

  1. 営業担当者経由ではなく、サプライヤーの「貿易管理部門」に直接連絡
  2. EPA制度の説明資料と、具体的な必要情報(原産国のみ)を提示
  3. NDA締結を提案し、情報管理体制を説明
  4. 自社のEPA活用による輸出増加計画を数値で提示

結果:

  • NDA締結後、必要な原産地情報を入手
  • その後、定期的な情報更新体制も構築
  • サプライヤー側も他顧客対応のノウハウとして活用

【事例2】海外サプライヤーとの連携

状況:

  • 機械メーカーB社(従業員100名)
  • サプライヤー:タイの部品メーカー
  • 言語の壁と、EPA制度の認知度不足

アプローチ:

  1. 英文の簡潔な説明資料を作成(1ページに要約)
  2. チェックボックス形式の簡易フォーマットを提供
  3. 現地訪問し、対面で説明(30分の説明会)
  4. ASEAN域内での原産性証明が、サプライヤー自身のビジネスにもメリットがあることを説明

結果:

  • 当初は懐疑的だったが、訪問説明で理解が深まる
  • 原産国と簡易な原材料情報を入手
  • サプライヤー側も、他の日系顧客対応のためEPA体制を整備

【事例3】情報提供困難時の代替策

状況:

  • アパレルメーカーC社(従業員30名)
  • サプライヤー:中国の生地メーカー
  • 原材料の詳細情報は「絶対に開示できない」

アプローチ:

  1. 詳細情報ではなく、「累積規定」適用可否のみを質問
    • 「ASEAN産の原材料を使用していますか? Yes/No」
  2. 開示できない情報は、「第三者機関による原産地証明書」の提供を依頼
  3. 代替サプライヤーの探索も並行して実施

結果:

  • 当初のサプライヤーからは最小限の情報のみ入手
  • 並行して探索した別サプライヤー(EPA対応可能)への切り替えを検討
  • 結果的に、コストとEPA対応の両面で有利な調達体制を構築

8. まとめ:成功するサプライヤー・リレーションの5原則

✅ 原則1:準備と計画

  • 依頼前に社内体制を整備
  • サプライヤーを分類し、優先順位を明確化
  • 十分なリードタイムを確保

✅ 原則2:明確なコミュニケーション

  • 依頼内容を具体的に、わかりやすく
  • EPA制度の背景とメリットを説明
  • 回答しやすいフォーマットを提供

✅ 原則3:柔軟性と段階的アプローチ

  • 最初から完璧を求めない
  • 最小限の情報から開始
  • 徐々に詳細情報へ拡大

✅ 原則4:信頼関係の構築

  • NDAによる機密保持の徹底
  • Win-Winの関係を提示
  • 長期的なパートナーシップの視点

✅ 原則5:継続性と改善

  • 一度きりで終わらせない
  • 変更管理プロセスの確立
  • 定期的なコミュニケーション

9. よくある質問(FAQ)

Q1: サプライヤーが「うちは中小企業だから対応できない」と言われました。

A: 中小企業こそ、シンプルな対応で十分です。「原産国のみ」「製造場所のみ」といった最小限の情報でも、多くの場合EPA判定は可能です。また、対応できるサプライヤーとして評価され、将来的な受注増につながる可能性もあることを伝えましょう。


Q2: NDA締結を提案したら、「そこまでする必要があるのか」と言われました。

A: NDAはサプライヤー保護のための提案であることを説明します。「貴社の機密情報を厳格に管理するための措置です」と伝え、簡易版NDA(2〜3ページ)の利用も検討しましょう。


Q3: 複数のサプライヤーから異なるフォーマットで情報が来て、管理が大変です。

A: 自社で標準フォーマット(Excel等)を作成し、入手した情報を転記して一元管理します。将来的には、専用の原産地情報管理システムの導入も検討しましょう。


Q4: サプライヤーから「HSコードがわからない」と言われました。

A: HSコードは専門知識が必要なため、無理に依頼せず、製品の一般的な名称と用途を教えてもらい、自社または通関士が分類する方法もあります。


Q5: 原産地情報が途中で変更されました。どう対応すべきですか?

A: まず、変更が原産性判定に影響するかを評価します。影響がある場合は、再判定を実施し、必要に応じて新たな原産地証明を取得します。今後は、契約書に「変更時の事前通知義務」を盛り込みましょう。


おわりに

サプライヤーからの原産地情報入手は、EPA活用の最大のハードルの一つですが、適切なコミュニケーションと関係構築により、多くの場合克服可能です。

重要なのは:

  • サプライヤーの立場を理解すること
  • Win-Winの関係を構築すること
  • 長期的な視点でパートナーシップを育てること

本記事のテンプレートや交渉術が、皆様のEPA活用推進の一助となれば幸いです。