複数協定時代の意思決定フレームワーク
2026年現在、日本は21のEPA/FTAを締結しており、ASEAN諸国との貿易では複数の協定が並立しています。
例えば、ベトナムからの輸入では:
- 日ベトナムEPA(2009年発効)
- 日ASEAN EPA(AJCEP、2008年発効)
- TPP11/CPTPP(2018年発効)
- RCEP(2022年発効)
4つの選択肢があり、法的な優先関係はありません。企業は自由に選択できますが、「どれを選ぶべきか」の判断基準が利益に直結します。

EPA選択の3大評価軸
【評価軸①:譲許税率の比較】
ケーススタディ:タイ産自動車部品の輸入
| 協定 | 2026年税率 | 2027年税率 | 最終税率 | 最終到達年 |
|---|---|---|---|---|
| 日タイEPA | 1.5% | 0% | 0% | 2027年 |
| AJCEP | 2.0% | 1.5% | 0% | 2028年 |
| RCEP | 2.5% | 2.0% | 0% | 2030年 |
戦略的判断:
- 短期(2026年):日タイEPA一択(税率差1.0%)
- 年間輸入額5億円の場合、年間500万円の差
【評価軸②:原産地基準の難易度】
同じ品目でも、協定により原産地基準が異なります。
例:繊維製品(HSコード6203.42)
| 協定 | 原産地基準 | 実務難易度 |
|---|---|---|
| 日ASEAN EPA | CTC(関税分類変更基準)のみ | ★★☆☆☆ |
| RCEP | CTC + RVC40%選択可能 | ★☆☆☆☆ |
| CPTPP | 厳格なCTC + 特定工程要件 | ★★★★☆ |
戦略的示唆:
- サプライチェーンが複雑な場合、RCEPの柔軟性が有利
- 原産性証明コストも考慮すべき要素
【評価軸③:証明コストと管理負担】
第三者証明 vs 自己申告の経済比較
| 項目 | 第三者証明(AJCEP) | 自己申告(RCEP) |
|---|---|---|
| 証明書発給手数料 | 1件 1,200円~ | 0円 |
| 申請リードタイム | 3~5営業日 | 即時発行可能 |
| 社内準備工数 | 5~10時間/件 | 2~3時間/件 |
| 年間100件の場合 | 約12万円 + 人件費50万円 | 人件費20万円 |
| 検認リスク | 低(発給機関が一次審査) | 中(企業が全責任) |
ROI分析の例:
【前提】タイ→日本、年間輸入額3億円、100件/年
■日タイEPA(第三者証明)
関税削減効果:300百万円 × 1.5% = 4,500千円
証明コスト:120千円 + 人件費500千円 = 620千円
───────────────────────────
実質削減額:3,880千円
■RCEP(自己申告)
関税削減効果:300百万円 × 2.5% = 7,500千円
証明コスト:人件費200千円
───────────────────────────
実質削減額:7,300千円
▶差額:+3,420千円(RCEPが有利)
動的ポートフォリオ戦略
EPA選択は「固定」ではなく「動的」に管理すべき
【ステージング条項の活用】
多くのEPAは段階的に税率が下がる「ステージング」を採用。
実践例:ベトナム産冷凍エビ(HSコード 0306.17)
| 年度 | 日ベトナムEPA | RCEP | 推奨協定 | 判断理由 |
|---|---|---|---|---|
| 2024年 | 2.0% | 3.0% | 日ベトナム | 税率優位 |
| 2025年 | 1.0% | 2.0% | 日ベトナム | 税率優位 |
| 2026年 | 0% | 1.0% | 日ベトナム | 税率優位 |
| 2027年 | 0% | 0% | RCEP | 自己申告で管理簡素化 |
ポイント: 税率が同じになった時点で、管理コストが低い協定に切り替える
迷わないための「意思決定フローチャート」
どの協定を使うか迷ったら、以下のステップで進めてください。
- 税率チェック: 0.5%以上の差があるか?
- Yes ➔ 一番税率が低いEPAを選択。
- No ➔ 手続きが楽なEPAへ。
- 証明方法チェック: 「自己申告」が可能か?
- 自社で書類が作れるなら、RCEPやCPTPPなど「自己申告」を優先。
- 輸送ルートチェック: 直送できるか?
- 第三国(シンガポール等)を経由する場合、非加工証明が取りやすい協定か確認。
まとめ:EPA選択は「利益の最大化」そのもの
複数の協定を比較検討することは、単なる事務作業ではなく「コスト削減」という攻めの経営戦略です。
- 最新の税率表を確認する
- 判定のしやすさと管理コストを天秤にかける
- 税率逆転のタイミングを見逃さない
まずは、現在利用している協定が「2026年時点で本当にベストか」、税率表を再確認することから始めてみましょう。