輸入他法令の「罠」:日本に持ち込むための法規制チェックリスト

貿易実務において、関税法以外の法律(食品衛生法、薬機法、植物防疫法など)を総称して「他法令」と呼びます。

税関は、これら他法令の許可・承認が得られていない貨物に対しては、絶対に輸入を許可しません。


1. 経営者が知るべき「他法令」のリスク

「安いから輸入しよう」という判断の前に、以下のリスクを評価する必要があります。

  1. 全損リスク: 他法令に抵触すると、商品は保税地域で「留置」されます。通関できなければ売ることもできず、廃棄費用まで発生します。
  2. リードタイムの不確実性: 検査に数週間かかるケースもあり、在庫計画が狂う原因になります。
  3. コストの増大: 検査費用、鑑定費用、保税倉庫での延滞保管料(デマレージ)など、予期せぬコストが利益を削ります。

【経営のヒント】

他法令の確認は「契約前」が鉄則です。サンプルを少量輸入して国内検査を済ませる「先行投資」が、本番の数千万円の損失を防ぎます。


2. 実務でよく遭遇する主要な「他法令」一覧

輸入される品目によって、確認すべき法律と窓口(官庁)が異なります。

法律名主な対象品目担当窓口実務のポイント
食品衛生法食品、飲料、食器、調理器具、乳幼児用おもちゃ厚生労働省(検疫所)「口に触れるもの」はすべて対象。原材料表の提出が必須。
植物防疫法野菜、果物、穀物、生花、木材(梱包材含む)農林水産省(植物防疫所)輸出国の「植物検疫証明書(Phyto)」が必要。
家畜伝染病予防法肉製品、卵、乳製品、革(一部)農林水産省(動物検疫所)非常に厳格。ASF(アフリカ豚熱)等の影響で輸入禁止地域が多い。
薬機法化粧品、サプリメント、医療機器、石鹸厚生労働省業許可(製造販売業など)が必要。個人輸入の制限も厳しい。
電気用品安全法 (PSE)家電、ACアダプター、リチウムイオン電池経済産業省日本独自の安全基準(PSEマーク)の表示義務がある。
化学物質審査法 (化審法)産業用化学品、一部の塗料・インク経済産業省新規化学物質でないかの事前照会が必要。

3. 実務担当者向け:輸入準備の具体的フロー

他法令の確認をスムーズに進めるための「4ステップ」をマニュアル化しましょう。

ステップ1:HSコードから規制を特定する

まずは実行関税率表(またはNACCS)で、該当するHSコードに付随する「輸入制限」の有無を確認します。

ステップ2:メーカーから詳細資料を取り寄せる

「単なるカタログ」では足りません。以下の資料を輸出者に要求します。

  • 食品の場合: 原材料リスト(100%分)、製造工程図。
  • 電気製品の場合: 回路図、テストレポート。
  • 化学品の場合: SDS(安全データシート)。

ステップ3:窓口官庁へ「事前照会」を行う

税関に書類を出す前に、各省庁の窓口(検疫所など)に資料を持参、またはメールし、「この内容で輸入可能か」の非公式な確認をとります。ここで修正を指摘されれば、本番でのトラブルを回避できます。

ステップ4:NACCS(ナックス)での確認

輸入申告時、NACCSというシステムを通じて他法令の承認番号を入力します。システム上で他法令の確認が済んでいないと、税関の審査画面にエラーが表示されます。


4. EPAとの意外な関係

「EPAを使えば他法令も免除される」という誤解がありますが、これは間違いです。

  • EPA: 「関税」を安くするためのもの(経済的優遇)。
  • 他法令: 「国民の安全・健康」を守るためのもの(社会的規制)。

たとえRCEPで関税が0%になっても、食品衛生法の検査で落ちれば、その貨物は日本に入れません。「関税のコスト計算」と「他法令のコンプライアンス」は常にセットで考える必要があります。


まとめ:契約書に「特約」を入れる

輸入者として身を守るために、海外サプライヤーとの契約書には以下の文言を入れることを検討してください。

「本商品は、日本の他法令(食品衛生法等)に基づく検査に合格することを条件とする。不合格の場合は、売主の責任と費用で返品または廃棄を行うものとする。」