貿易決済には、大きく分けて「送金(T/T)」「信用状(L/C)」「荷取手形(D/P, D/A)」の3種類があります。国内取引と異なり、相手が見えない海外との取引では、**「商品の発送」と「代金の支払い」のタイミング(同時履行)**をいかに担保するかが重要です。
1. 経営者が知るべき決済手段の「リスク・コスト表」
各決済手段には、安全性と手間のトレードオフがあります。
| 決済手段 | 仕組み | 経営上のメリット | 経営上のリスク |
| 送金 (T/T) | 銀行振込。前払い、後払い、出荷時払いがある。 | 手数料が安く、手続きが極めてシンプル。 | 前払いなら「持ち逃げ」、後払いなら「支払い拒否」のリスク。 |
| 信用状 (L/C) | 銀行が支払いを保証する仕組み。 | 銀行が介在するため、最も安全。資金調達(ユーザンス)も可能。 | 手数料が高い。書類のわずかな不備で支払いが止まる。 |
| 荷取手形 (D/P, D/A) | 銀行経由で書類と引き換えに決済する。 | L/Cより安価で、T/Tよりは安全(書類を担保にするため)。 | 銀行は「支払い保証」はしない。貨物の引き取り拒否リスクあり。 |
2. T/T送金(Telegraphic Transfer):現代の主流
現在の貿易の約8割以上がT/T送金と言われています。
- 前払い (Advance Payment): 輸出者には有利だが、輸入者(自社)は商品が届かないリスクを負う。
- 後払い (Deferred Payment): 輸入者には有利。一定期間の取引実績がある「オープンアカウント」で行われる。
- 実務のポイント: 振込手数料(Remittance Fee)をどちらが負担するか、事前に契約書で決めておく必要があります。
3. 信用状(L/C:Letter of Credit):安全の極み
銀行が、輸出者に対して「輸入者が払わなければ、代わりに銀行が払う」と約束する書類です。
- メリット: 輸出者は「船積みすれば確実に金がもらえる」ため、安心して出荷できます。輸入者は「書類が整わない限り払わなくてよい」ため、契約通りの出荷が担保されます。
- デメリット: 銀行に「与信(枠)」が必要です。また、B/Lやインボイスの1文字でも間違っていると**「ディスクレ(内容不一致)」**として支払いが拒絶され、訂正に多額の費用と時間がかかります。
4. 【実務マニュアル】決済手段を選ぶ際の判断基準
どの決済手段を選ぶべきか、以下のフローで検討してください。
- 相手との信頼関係は?
- 初めての取引、かつ高額 → L/C
- 長年の付き合い、親子会社間 → T/T(後払い)
- 相手国のカントリーリスクは?
- 外貨準備が不足している国や、政情不安な国 → L/C(その国の銀行が飛ばない限り安全)
- 資金繰りの余裕は?
- 手元資金を減らしたくない → **L/C(期限付:ユーザンス)**を利用して、販売後に支払う形を組む。
5. 【トレードビズの視点】為替予約との連動
決済手段を決める際、同時に考えなければならないのが「為替」です。
- T/T送金の場合、送金日のレートが適用されるため、円安が進むと輸入原価が跳ね上がります。
- 契約時に銀行と**「為替予約」**を結ぶことで、将来の支払レートを固定し、原価計算(3-1章)を確定させることが、コンサルティング上の重要な助言となります。
まとめ:決済は「信頼を形にする作業」
貿易決済は、単なる支払作業ではなく、相手国・相手企業との「リスク分担」の合意そのものです。
自社のキャッシュフローとリスク許容度を鑑み、最もバランスの良い手段を選択しましょう。