1. 経営者が理解すべき「EPAの財務的インパクト」
EPA(Economic Partnership Agreement)を活用して関税をゼロにすることは、売上を伸ばすことと同等、あるいはそれ以上の効果を利益にもたらします。
- 直接的なコストダウン: 関税5%の品目を10億円輸入している場合、EPA活用で年間5,000万円の純利益が上積みされます。
- 輸入消費税の圧縮: 第3-3章で学んだ通り、消費税は「CIF価格+関税」にかかります。関税が0円になれば、支払うべき消費税額も連動して減少し、キャッシュフローが改善します。
- 価格競争力の強化: 原価が下がることで、国内販売価格の引き下げや、浮いた資金をマーケティングへ投資することが可能になります。
2. EPA適用のための「3つの絶対条件」
EPAを適用して「合法的にゼロ」にするには、以下の3つがすべて揃っている必要があります。
① 品目条件(HSコードの合致)
相手国との協定において、そのHSコードが関税削減の対象(譲許対象)になっていること。
② 原産地規則(Origin Criteria)
「単にその国から船が出た」だけでは不十分です。その国で実質的な変更(加工)が加えられたことを証明する必要があります。
- 関税番号変更基準(CTC): 原材料と製品のHSコードが変化しているか?
- 付加価値基準(VA): その国で一定以上の付加価値が付けられたか?
③ 積送基準(Consignment Criteria)
原則として「協定国から日本まで、直送されていること」が必要です。第3国を経由する場合は、税関の管理下(保税地域)から一歩も出ていない証明(非加工証明書など)が求められます。
3. 実務担当者向け:EPA申告のフローと必要書類
日本の輸入通関においてEPAを適用する際、以下のいずれかの方法で「原産性」を証明します。
- 第三者証明制度(従来型): 輸出国の商工会議所などが発行する「原産地証明書(CO)」を入手し、通関時に提出する。
- 自己申告制度(RCEP, TPP11, 日欧EPAなど): 輸入者または輸出者が、自ら作成した「原産地申告文」や「原産地申告書」で証明する。【実務の勘所】 自己申告制度は「証明書を待つ時間」が省ける一方で、証明の全責任が自社にかかるため、根拠資料(黄金セット)の保管が極めて重要です。
4. 事後調査(検認)への「防衛戦略」
EPAで関税をゼロにすると、数年後に税関から**「検認(Verification)」**というチェックが入ることがあります。
- 根拠資料の7年保存: 判定に用いたワークシート、原材料リスト、製造工程図などを即座に出せるように整理しておきます。
- サプライヤーとの協力体制: 「検認」時には、海外メーカーにしか分からない製造データの提出を求められることがあります。契約の段階で「EPA調査には全面協力する」という条項を入れておくのが経営の知恵です。
5. 【トレードビズの視点】EPAは「守り」から「攻め」へ
「使えるから使う」のではなく、**「EPAが使える国から仕入れる」「EPAが有利なHSコードに製品設計を寄せる」**といった、一歩踏み込んだ戦略がコンサルティングの領域です。 関税の壁を低くすることで、サプライチェーン全体を最適化することが、これからの貿易経営のスタンダードになります。
まとめ:EPAは「知識の差」が「利益の差」になる
EPAは複雑ですが、正しく運用すればこれほど強力な節税・利益創出ツールはありません。 「合法的に、かつ永続的に」関税をゼロにするための体制構築を、今すぐ始めましょう。