直接貿易とEPA:積送基準という「見えない壁」

積送基準が生む機会損失

EPA活用の大きな障壁が積送基準(Direct Consignment Rule)です。

原則: 輸出国から輸入国へ直送されること

例外: 第三国(非締約国)経由の場合、以下を証明する必要がある:

  1. 当該第三国で積卸し・保管以外の作業が行われていないこと
  2. 当該第三国の税関管理下にあること

実務で頻発する「シンガポール・香港問題」

【典型的なケース】

状況:

  • 輸出国:タイ(EPA締約国)
  • 経由地:シンガポール(EPA締約国だが、積替え拠点として利用)
  • 輸入国:日本

問題点: シンガポールで積替えが発生すると、原産性が失われるリスク

【解決策①:通し船荷証券(Through B/L)】

定義: 輸出港から最終仕向港まで一貫した運送契約を示すB/L

メリット:

  • 追加書類不要
  • 第三国での作業が「単なる積替え」であることを証明

取得のポイント:

  • 船積み時に船会社にThrough B/L発行を依頼
  • 「Final Destination: Yokohama」など最終港を明記
  • 経由地は「Via Singapore」として記載

注意事項:

  • すべての船会社が発行可能とは限らない
  • フォワーダーの混載便では取得困難なケースも

【解決策②:非加工証明書(Non-manipulation Certificate)】

定義: 第三国の税関・商工会議所が発行する「当該貨物に加工等が行われていない」ことの証明書

発給機関の例:

国・地域発給機関申請先発給日数費用
シンガポールSingapore Customsオンライン申請3~5営業日約S$50~
香港Hong Kong Trade and Industry Department書面申請5~7営業日約HK$300~
ドバイDubai Customs担当官へ申請7~10営業日要確認

必要書類(一般例):

  1. 輸出国で発給された原産地証明書(コピー)
  2. 輸入B/L、輸出B/L
  3. インボイス、パッキングリスト
  4. 倉庫保管証明(Warehouse Receipt)
  5. 申請書(所定フォーマット)

実務の落とし穴:

❌ 事前準備不足
→ 貨物到着後に初めて必要性に気づく
❌ 言語の壁
→ 英語または現地語での書類準備
❌ 発給遅延
→ EPA税率適用タイミングを逃す

【解決策③:直送ルートへの変更】

戦略的アプローチ:

コスト比較の例(タイ→日本、年間100TEU)

ルート運賃/TEU追加コスト年間総コスト積送問題
タイ→シンガポール→日本$1,200非加工証明$100/件$130万あり
タイ→日本(直送)$1,500なし$150万なし

戦略的判断:

  • 運賃差:$300/TEU × 100TEU = $30,000(約450万円)
  • EPA関税削減効果が450万円以上なら直送検討
  • 管理工数・リスクも考慮すると直送が有利なケース多数

日ASEAN EPAの「Back-to-Back CO」活用

画期的な制度:連続する原産地証明書

仕組み: ASEAN域内で積替えが発生する場合、中継国で新たな原産地証明書を発給できる

活用例:

ベトナム(生産)
    ↓ 【第1原産地証明書】
シンガポール(物流拠点)
    ↓ 【Back-to-Back CO発給】
日本(最終輸入)

メリット:

  • シンガポールの高機能倉庫でVAS(付加価値サービス)可能
  • ラベリング、検品、小分けなども実施可能
  • 非加工証明不要

制限事項:

  • 日ASEAN EPAのみ適用可能
  • 中継国もASEAN加盟国である必要