1. デミニミスとは?「わずかな例外」を認める救済規定
デミニミスとは、ラテン語で「法は些細なことに関わらない」という意味です。
EPAの実務では、「本来はルール違反(非原産)の材料が混ざっていても、それがごくわずかであれば、無視して原産品と認める」という非常にありがたい救済規定です。
- なぜ必要か: ネジ1本やラベル1枚が外国産というだけで、製品全体が「日本製」でなくなるのは不合理だからです。

2. 基本ルール:許容範囲は「10%」が目安
デミニミスが許される範囲は、一般的に以下の通りです。この範囲内なら、ルールをクリアできない材料が含まれていてもOKです。
| 基準タイプ | 許容範囲(上限) | 主な対象品目 |
| 価額基準 | 製品価格(FOB)の10%以下 | 工業製品全般(電子機器、機械など) |
| 重量基準 | 製品総重量の10%以下 | 繊維製品、農産品など |
注意: 協定や品目(特に繊維や農産品)によっては、7%に制限されたり、適用対象外となる場合もあります。必ず各EPAの条文を確認しましょう。
3. デミニミスが「本領発揮」する場面
デミニミスは、主にCTC基準(関税分類変更基準)の判定で使われます。
活用シナリオ:
- 状況: 製品(HS 8471)を製造中。ほとんどの材料はコードが変わる(CTH成立)が、1つだけ製品と同じHSコード(8471)の輸入部品が混ざってしまった。
- 通常: CTH不成立となり、非原産判定。
- デミニミス適用: その部品の価格が製品の10%以下なら、その部品を「なかったこと」にして判定できます。結果、めでたく原産品(日本製)となります!
4. 実務での計算シミュレーション
実際に「合格」と「不合格」のラインを見てみましょう。
【ケースA:合格】電子機器(FOB価格:10,000円)
- CTC不成立の輸入部品:800円
- 計算:800 / 10,000 = 8%
- 判定: 10%以下のため、デミニミス適用で合格!
【ケースB:不合格】ロボット部品(FOB価格:100,000円)
- CTC不成立の輸入センサー:12,000円
- 計算:2,000 / 100,000 = 12%
- 判定: 10%を超えるため、デミニミス適用不可。不合格。
- 対策: センサーを国産に切り替えるか、VA基準(付加価値基準)での判定に切り替えます。

5.デミニミスの適用条件と制限
条件1:CTCの補完的役割
デミニミスは、CTC基準を「ほぼ」満たしているが、一部の材料だけがNG という場合の救済策です。
適用できるケース:
- 大半の非原産材料はCTCをクリア
- 一部の非原産材料だけがCTC不成立
- その「一部」が10%以下
適用できないケース:
- そもそもCTC基準が規定されていない品目
- 全ての非原産材料がCTC不成立
条件2:VA基準には原則適用されない
デミニミスは、主にCTC基準の救済に使われます。
VA基準(付加価値基準)では、すでに非原産材料が計算に反映されているため、デミニミスの適用は限定的です。
例外: 一部のEPA(日EU EPAなど)では、VA基準にもデミニミス的な考え方が組み込まれています。
条件3:品目による除外規定
一部の品目では、デミニミスが適用除外されています。
除外されやすい品目:
- 農産品(乳製品、砂糖など)
- 繊維製品(一部)
- 鉄鋼製品(一部)
理由: これらは国内産業保護の観点から、厳格な原産地規則が適用されます。
実務のポイント: 必ずEPA協定文の「デミニミス条項」と「品目別規則の注」を確認してください。
6.EPA別デミニミス規定の違い
主要EPAのデミニミス比較
| EPA | 基本比率 | 適用対象 | 特記事項 |
|---|---|---|---|
| 日ASEAN EPA | 10% | 一般品目 | 繊維は7% |
| TPP11(CPTPP) | 10% | 一般品目 | 繊維製品の詳細規定あり |
| 日EU EPA | 10% | 一般品目 | 農産品・繊維の除外規定 |
| RCEP | 10% | 一般品目 | 累積との併用可 |
| 日英EPA | 10% | 一般品目 | 日EU EPAとほぼ同様 |
繊維製品の特別ルール
繊維製品(第50類~第63類)は、独自のデミニミス規定を持つことが多いです。
日ASEAN EPAの例:
- 一般品目:10%
- 繊維製品:7%(より厳格)
TPP11の例:
第61類・第62類(衣類):
・繊維材料(糸、生地):重量の10%以下
・付属品(ボタン、ファスナー等):重量の10%以下
・見える裏地:重量の10%以下
実務のコツ: 繊維製品を扱う場合、必ず「繊維特別規則」の章を確認してください。
7. デミニミス活用の実務ポイント
- 「あと少し」の時の切り札: 判定が惜しくもNGだった際、最初に検討すべき救済策です。
- VA基準には使わない: VA基準(付加価値基準)はもともと金額で計算しているため、原則としてデミニミスは使いません(CTC基準専用の救済策です)。
- 証拠を残す: デミニミスを適用して判定した場合は、「なぜ適用したか」「比率の計算根拠」をBOM(部品表)や計算書に明記し、5〜7年間保存する必要があります。
まとめ:デミニミス活用の3ステップ
- CTC判定でNGな材料を特定する
- その材料の価格(または重量)が10%以内か計算する
- 10%以内なら、胸を張ってデミニミスを適用し「原産品」とする