関税評価と加算要素:事後調査で狙われるポイント

関税は原則として、インボイスに記載された価格(取引価格)に基づいて計算されます。しかし、税関の考え方は**「日本に届くまでに、その貨物に対して実質的にいくら支払ったか」です。インボイスに載っていない「隠れた支払い」があれば、それを価格に足し合わせなければなりません。これを「加算要素(Addition Elements)」**と呼びます。


1. 経営者が知るべき「関税評価」の怖さ

なぜ、関税評価が事後調査で狙われるのでしょうか?

  1. インボイスには現れない: 貨物と一緒に流れるインボイスには、別払いの「金型代」や「ロイヤリティ」は記載されません。税関は、会社の「会計帳簿」を見て、後からこれを見つけ出します。
  2. 追徴課税が重い: 過去3〜5年分の輸入取引すべてに遡って計算されるため、一回の調査で数千万〜数億円の支払いが生じるケースもあります。
  3. 「故意」でなくても罰則: 単なる知識不足による漏れであっても、過少申告加算税の対象となります。

2. 実務で「加算」を忘れてはいけない4大要素

もっとも間違いやすい加算要素は以下の4つです。

① 無償支給品(アシスト)

海外メーカーに、日本から「原材料」「金型」「デザイン図面」などを無償、または安く提供している場合、その**提供にかかった費用(時価)**をインボイス価格に加算しなければなりません。

例: 1個1,000円のバッグの製造のために、日本から100万円の「抜き型」を無償提供したなら、その型代をバッグの輸入個数で按分して価格に上乗せします。

② ロイヤリティ・ライセンス料

輸入する商品にブランド名や特許技術が使われており、その対価として別途権利者にロイヤリティを支払っている場合、それが「輸入の条件」となっている限り、課税対象となります。

※注意: 商品そのものに関係のない「商標使用料(店舗の看板代など)」は加算不要な場合もあり、判断には高度な専門知識が必要です。

③ 成功報酬・仲介手数料(コミッション)

輸入者が「買い手側の代理人」に払う手数料は不要ですが、「売り手側の代理人」に払う手数料や、成約のために仲介者に払った費用は加算対象です。

④ 別途支払いの運賃・保険料

インコタームズがFOBやEXWの場合、日本までの運賃を別途フォワーダーに支払います。これを申告価格に入れ忘れるのは初歩的ですが非常に多いミスです。


3. 事後調査(Post-Clearance Audit)のポイント

輸入許可から2〜3年経った頃、税関から「事後調査」の通知が届きます。彼らは以下の書類を徹底的に照合します。

  • 輸入許可通知書(申告した価格)
  • 送金記録・通帳(実際に海外へ送金した総額)
  • 経理帳簿(支払手数料、外注費など)(インボイス外の支払いがないか)

ここで「送金総額 > 申告総額」となっていると、その差額について厳しい追及が行われます。


4. 【トレードビズの視点】EPAと関税評価の関係

EPAを活用して関税率が「0%」になっている場合でも、関税評価の手抜きは許されません。

  • 消費税のリスク: 関税が0%でも、価格を過少申告していれば、本来払うべき**「輸入消費税(10%)」**を漏らしていることになります。
  • 信用問題: 評価申告に不備が多いと、税関からの「信頼格付け」が下がり、その後の輸入がすべて「区分3(貨物検査)」に回されるなど、物流のスピードが大幅に低下する恐れがあります。

まとめ:経理と貿易実務の「壁」を壊す

関税評価のミスを防ぐ唯一の方法は、**「海外への全ての支払いを、貿易担当者が把握すること」**です。 金型を支給した、別途ロイヤリティ契約を結んだ、といった経営判断がなされた際、即座に「これは輸入申告に影響しないか?」とチェックできる体制こそが、最強の防衛策となります。