英文売買契約書(Sales Contract)の重要条項:トラブルを未然に防ぐ「防衛線」

海外のサプライヤーから送られてくる契約書をそのままサインするのは危険です。彼らにとって有利な条項が並んでいることが多いため、以下のポイントを必ずチェックし、必要であれば修正(カウンターオファー)を求めましょう。


1. 品質保証と検査(Quality and Inspection)

貿易トラブルの第1位は「品質」です。「届いたものが、サンプルと違う」という事態にどう備えるかを明記します。

  • Inspection(検査): 船積み前に第三者機関(SGSなど)の検査を受けるか、あるいは輸入後の日本での検品結果を優先するかを定めます。
  • Warranty(保証): 不良品が発見された場合、「代替品を無償で送るのか」「次回の注文から差し引く(クレジット)のか」「返金するのか」を具体的に記載します。
  • Claim Period(クレーム申立期間): 貨物到着後、何日以内に通知すれば受け付けてもらえるか(例:Within 30 days after arrival)。

2. 準拠法と紛争解決(Governing Law and Arbitration)

万が一、裁判沙汰になった際に「どこの国の法律で、どこで戦うか」という極めて重要な項目です。

  • Governing Law(準拠法): 日本法(Japanese Law)にするのが理想ですが、相手が拒む場合は、公平な「第三国の法律(シンガポールや香港など)」を検討します。
  • Arbitration(仲裁): 海外取引では、時間がかかる裁判よりも「仲裁」を選ぶのが一般的です。「日本商事仲裁協会(JCAA)」などを指定しておくと、日本での解決が図りやすくなります。

3. 不可抗力(Force Majeure)

地震、洪水、戦争、そしてパンデミックなど、「誰のせいでもない理由」で出荷が遅れたり不能になったりした場合の免責条項です。

  • 通知義務: 「不可抗力が起きたら、直ちに証明書を添えて相手に通知しなければならない」という一文を入れ、連絡が途絶えるリスクを防ぎます。
  • 解除権: 「不可抗力が90日以上続く場合は、無償で契約を解除できる」といった逃げ道を作っておくことが経営上の安全策です。

4. 知的財産権(Intellectual Property Rights)

特にOEM(自社ブランド生産)を行う場合に必須の項目です。

  • 権利の帰属: 「こちらが提供したデザインやロゴの権利は、すべて輸入者に帰属し、サプライヤーは他社へ転売してはならない」ことを明記します。
  • 模倣品の禁止: 「契約終了後も、類似品を製造・販売してはならない」という一文が、自社のブランド価値を守ります。

5. 【経営判断】契約書は「お守り」である

契約書があるからといって、100%トラブルを防げるわけではありません。しかし、契約書があることで以下のメリットが生まれます。

  1. 抑止力: 「しっかりした会社だ」と思わせることで、相手の適当な対応を防ぐ。
  2. 保険の要件: 深刻な事故が起きた際、海上保険や貿易保険の請求で契約書の提示を求められることがあります。
  3. 出口戦略: 取引を辞めたくなった時、どのような手順で終了できるか(Termination)を明確にしておくことで、スムーズな撤退が可能になります。

6. 【実務担当者へのアドバイス】「PO(注文書)」を活用する

毎回、分厚い契約書を交わすのは大変です。その場合は、「基本売買契約書(Master Agreement)」を1回交わし、日々の注文は「PO(Purchase Order / 注文書)」で行う形式をとりましょう。 POの裏面に「標準取引条件(Standard Terms and Conditions)」※を記載しておくだけでも、法的な防御力は格段に上がります。


まとめ:取引開始への「情報のバトン」

第0章の「ソーシング・交渉」はこれで完了です! 信頼できる相手を見つけ、条件を詰め、契約という形でリスクを封じ込めました。

ここからは、いよいよ実務の核心、「第1章:1-1. インコタームズ2020徹底解説」へと進みます。契約書に記載した「FOB」や「CIF」という言葉が、具体的にどのような実務作業に繋がるのかを紐解いていきましょう。


※標準取引条件とは、「毎回の注文書に自動的に適用される共通ルール集」であり、契約書を交わさなくても自社を守るための最低限の契約条件

項目基本売買契約書(Master Agreement)標準取引条件(Standard T&C)
位置づけ取引全体の“憲法”日々の取引の“実務ルール”
適用範囲継続的取引全体各PO(個別注文)
締結方法署名・押印PO裏面記載・参照
更新頻度原則1回必要に応じて更新可能