海上保険の仕組みと事故時の対応:予期せぬ損失から会社を守る

貿易は常に、沈没、火災、盗難、破損といったリスクと隣り合わせです。海上保険は、単なる「掛け捨ての費用」ではなく、グローバルビジネスにおける「安全装置」です。


1. 経営者が知るべき「共同海損(General Average)」の恐怖

海上保険を「自社の荷物が壊れた時だけのもの」と思っていると、大きな落とし穴があります。それが共同海損(General Average)という数千年前から続く貿易特有のルールです。

  • 共同海損とは: 船が座礁したり火災が起きたりした際、船全体を救うために「一部の荷物を海に捨てた」り、「救助船を呼んだ」りした場合、その犠牲や費用を「助かった全ての荷主」で按分(シェア)して負担するという仕組みです。
  • リスク: 自社の荷物が無傷であっても、数百万〜数千万円の分担金を請求されることがあります。海上保険に入っていれば、この分担金も保険会社が肩代わりしてくれます。

2. 実務担当者向け:保険の「条件」と「範囲」

保険のかけ方には、主に以下の3つのパターンがあります。

① インコタームズとの関係(誰が保険をかけるか)

  • CIF / CIP 契約: 輸出者が保険をかけます。輸入者は、事故時に保険金を受け取れるよう「保険証券(Insurance Policy)」を受け取る必要があります。
  • FOB / CFR 契約: 輸入者が保険をかけます。貨物が船に載った瞬間に保険が開始されるよう、事前に保険会社と「包括予定保険契約(Open Policy)」を結んでおくのが一般的です。

② 補償範囲(どのリスクをカバーするか)

一般的に「協会貨物約款(ICC)」という国際基準に基づきます。

条件補償範囲推奨されるケース
ICC (A) / All Risks全危険。盗難、雨濡れ、破損などほぼ全て。【推奨】 精密機器、雑貨、アパレルなど。
ICC (B) / WA浸水や墜落など。雨濡れなどは対象外。比較的丈夫な貨物。
ICC (C) / FPA船の座礁、火災、沈没など「全損」に近い事態。鉄鋼、鉱石、石炭などのバラ積み貨物。

3. 【実務マニュアル】事故が発生した時の対応フロー

貨物が届き、ダメージを発見した瞬間の対応が、保険金支払いの可否を分けます。

  1. 異常の発見と証拠保全:荷下ろしの際、外装にダメージがあればその場で写真を撮ります。 コンテナのシール(封印)が切られていないかも確認してください。
  2. 留保文言(Exceptions)の記載:受領書(Delivery Receipt)にサインする際、必ず「Damage suspected(ダメージの疑いあり)」と書き込みます。無条件でサインすると「無傷で受け取った」とみなされ、保険請求が非常に難しくなります。
  3. 保険会社への通知(Notice of Claim):すぐに保険会社(または代理店)に連絡します。
  4. サーベイヤー(鑑定人)の手配:ダメージが大きい場合、保険会社が第3者機関の鑑定人を派遣し、事故原因を調査します。
  5. 求償権の保全(Notice to Carrier):船会社に対しても「損害賠償請求の通知」を正式に送ります(これを忘れると保険金が減額される場合があります)。

4. 経営判断:保険料を安く抑えるコツ

  • 包括予定保険契約(Open Policy)の活用:スポットでかけるよりも手間が省け、保険料率も優遇されます。また、「かけ忘れ」による無保険状態を防げます。
  • 免責金額(Deductible)の設定:「10万円以下の損害は自社負担」とする設定にすることで、年間の保険料総額を下げることが可能です。

まとめ:貿易に「絶対」はない

どれだけ完璧なフォワーダーを選んでも、自然災害や事故は防げません。

「保険料はコストではなく、ビジネスを継続するための固定費である」という認識を持ち、常に**「All Risks条件」での契約**を基本とすることをお勧めします。