輸入ビジネスにおける「仕入れ値」とは、海外メーカーに支払う金額のことではありません。「商品が自社倉庫の棚に並ぶまでにかかった全費用」のことです。これを「ランデッド・コスト(Landed Cost)」と呼びます。
1. 輸入原価を構成する「4つのブロック」
正確な原価計算のために、コストを以下の4つに分類して整理しましょう。
- 商品代金(FOB/EXW価格): 海外サプライヤーへ支払う商品そのものの代金。
- 国際物流費: 海上・航空運賃、保険料、輸出地での諸掛(EXWの場合)。
- 輸入税金(ここが重要!): 関税および輸入消費税。
- 国内諸掛・手数料: 通関手数料、国内配送料(ドレージ・トラック)、銀行送金手数料、他法令検査費用。

2. 実務担当者がマスターすべき「税金計算のロジック」
輸入時にかかる税金は、国内取引の消費税計算とはルールが異なります。
① 課税標準(CIF価格)の算出
日本の税関は、原則としてCIF価格(商品代金+国際運賃+保険料)をベースに関税を計算します。
- FOB契約の場合:商品代金 + 自社で払う運賃 + 保険料 = 課税標準
- CIF契約の場合:インボイス価格 = 課税標準
② 関税の計算
関税額 = 課税標準(1,000円未満切り捨て) \ 関税率
※ここでEPAを適用すれば、関税率を0%に下げることができます。
③ 輸入消費税の計算(ここが盲点!)
消費税は「商品代金」だけに、かかるのではありません。
消費税額 = (課税標準 + 関税額)(1,000円未満切り捨て) \消費税率(通常10\%)
「関税に対しても消費税がかかる」という二重構造になっている点に注意が必要です。

3. 【実戦】輸入原価シミュレーション・ケーススタディ
以下の条件で、日本国内の倉庫に届くまでの総コストを試算してみましょう。
- 条件: 中国からバッグ1,000個を輸入(FOB上海)
- 商品単価: 1,000円(総額100万円)
- 為替レート: 150円/ドル(計算済とする)
- 関税率: 8%(EPA未適用)
- 物流費・諸掛: 合計15万円(運賃・通関・国内配送等)
| 項目 | 計算式 | 金額(円) |
| (A) 商品価格(FOB) | 1,000,000 | |
| (B) 国際運賃・保険 | 100,000 | |
| (C) 課税標準(CIF) | (A) + (B) | 1,100,000 |
| (D) 関税額 | (C) × 8% | 88,000 |
| (E) 消費税額 | (C + D) × 10% | 118,800 |
| (F) 国内諸掛・手数料 | 通関・トラック代など | 50,000 |
| 総原価(総コスト) | (A) + (B) + (D) + (E) + (F) | 1,356,800 |
【結果の分析】
商品代金は100万円ですが、最終原価は約136万円。原価係数は1.36となります。つまり、1,000円で買ったつもりのバッグは、日本に届いた時点で単価1,357円になっているのです。
4. EPAが利益に与えるインパクト(ROIの視点)
上記のシミュレーションで、EPA(RCEP等)を活用して関税を0%にできた場合を考えてみましょう。
- 関税額: 88,000円 → 0円
- 消費税額: (110万円 + 0円) × 10% = 110,000円(8,800円の減)
- 総原価: 1,260,000円(※消費税は還付対象のため、実質コストから除外して考える場合)
EPAを適用するだけで、約10万円の利益(=純増)が生まれます。年間12回輸入すれば、年間120万円の利益改善です。これが「EPAは経営戦略である」と言われる所以です。

5. 経営判断のためのチェックポイント
- 為替予約の検討: 決済時のレートが5円円安に振れるだけで、利益が吹き飛ぶ可能性があります。
- 消費税の還付: 輸入消費税は、確定申告時に「支払った税金」として控除・還付の対象になります。キャッシュフロー上の支出と、最終的な損益を分けて管理しましょう。
- 「バッファ」の設定: 燃料サーチャージの変動や、検査による追加保管料を想定し、シミュレーションには3〜5%の予備費を含めておくのが実務の知恵です。
まとめ:正確な原価計算が「攻め」の姿勢を作る
コストの全貌が見えて初めて、適切な販売価格の設定や、大胆なマーケティング投資が可能になります。「なんとなく」の計算を卒業し、1円単位まで可視化するフローを構築しましょう。
