①原産地証明書や自己申告文を「出すだけ」では不十分
実務上、本当に重要なのは
「その原産性を説明できる根拠資料を、後から出せるか」です。
なぜなら、EPA適用後であっても、
輸入国税関は最長5~7年間、原産性の根拠資料の提出を求めることができるからです。
この確認手続きが、いわゆる 「事後検認」 です。
根拠資料がない場合のリスク
事後検認の際に、
税関が納得できる根拠資料を提出できなければ、次のような事態が起こります。
- EPA特恵の否認
- 関税の追徴
- 延滞税・加算税の発生
- 通関遅延によるコスト増
- 取引先からの信頼低下
特に注意すべき点は、
「立証責任は輸出者側にある」ということです。
「昔作ったはずだが見当たらない」
「担当者が退職して分からない」
こうした説明は、一切通用しません。
否認された場合のダメージ(イメージ)
【試算例】
- 年間輸出額:5,000万円
- EPAによる関税削減効果:10%(=500万円)
検認で否認された場合:
- 関税追徴:500万円
- 延滞税・加算税:約50万円
- 通関遅延による倉庫料など:約20万円
合計:570万円以上 + 信用低下(数値化不能)

② 根拠資料の「黄金セット」とは何か
EPAの事後検認において、
最低限これだけ揃っていれば説明が通るという資料があります。
それが、次の 3点セット です。
① 原材料対比表
② 製造工程図
③ BOM(部品表)
これを私は、
「原産性立証の黄金セット」 と呼んでいます。

逆に言えば、
この3点が整理されていない場合、
どれだけ口頭で説明しても、税関は納得しません。
③ 対比表・製造工程図・BOMの役割
では、それぞれの資料が
税関に対して何を説明する役割を持っているのかを整理します。
(A)原材料対比表
― 原産性ルールを満たしていることを示す「答案用紙」
原材料対比表は、
EPAの原産地規則を、条文どおりに満たしているかを示す表です。
主な役割は次の3点です。
- 使用している原材料は何か
- それぞれが「原産」か「非原産」か
- HSコード変更基準やVA基準を満たしているか
つまり、
「結論」を一目で示す資料です。
税関はまず、この表を見て
「理屈として合っているか」を確認します。
(B) 製造工程図
― その結論が「現実に行われている」ことを示す証拠
原材料対比表だけでは、
「本当にその加工をしているのか?」が分かりません。
そこで必要になるのが、製造工程図です。
製造工程図の役割は、
- どの工程を
- どの国で
- どの順番で行っているか
を視覚的に示すことです。
税関はここで、
単なる積み替え・簡単加工ではないか
をチェックします。
(C) BOM(部品表)
― 数字の裏付けをする「計算根拠」
BOMは、
原材料対比表の数字を裏から支える資料です。
具体的には、
- 使用している部品・材料の一覧
- 数量・単価
- 原産・非原産の区分
を示します。
VA基準(付加価値基準)を使う場合、
このBOMがないと計算の説明ができません。
税関にとってBOMは、
「この数字、本当に合っている?」
を確認するための必須資料です。
④ なぜこの3点があれば足りるのか
事後検認で税関が見ているポイントは、
実はとてもシンプルです。
税関のチェック観点は、次の3つに集約されます。
- ルールを満たしているか(理屈)
- 実際にその製造をしているか(実態)
- 数字に根拠があるか(証拠)
これを資料に当てはめると、こうなります。
| 税関の視点 | 対応する資料 |
|---|---|
| 理屈 | 原材料対比表 |
| 実態 | 製造工程図 |
| 証拠 | BOM |
つまり、
この3点で「原産性の説明が完結する」**のです。
よくある誤解
- インボイスだけあれば足りる
- 原産地証明書があるから大丈夫
- 契約書を出せば説明できる
これらはすべて 補助資料 であり、
主役にはなりません。
事後検認で本当に問われるのは、
「なぜ原産といえるのか」を
第三者(税関)に説明できるかです。

まとめ
EPA実務において重要なのは、
完璧な資料を大量に作ることではありません。
- 原材料対比表
- 製造工程図
- BOM
この 黄金セット を
いつでも出せる状態で管理しているか
それが、
EPAを「安心して使える会社」と
「いつか否認される会社」を分けます。