1. 累積とは?「チーム」で戦うためのルール
累積規定とは、EPAを結んでいる国々全体を「一つの大きな国」と見なして計算できる制度です。 現代の製造業では、1つの製品を複数の国で分担して作ることが当たり前ですが、この制度があるおかげで「複数国にまたがる生産」でも、日本産(または域内産)と認められやすくなります。
- 累積がない場合: 隣の国から買った部品は、たとえ仲間(EPA締約国)であっても「外国産の材料」として厳しくチェックされます。
- 累積がある場合: 仲間から買った部品は、自分の国で作った材料と同じように「原産材料」としてカウントできます。

2. 実務で使われる3つの累積タイプ(詳細)
① 二国間累積(Bilateral Accumulation)
- 仕組み: A国とB国の2国間EPAにおいて、相手国(A)の原産品を自国(B)の材料として累積できます。
- 注意点: 相手国の材料そのものが、そのEPAのルール(PSR)をクリアして「原産品」になっている必要があります。
② 地域累積(Regional Accumulation)
- 仕組み: ASEANやRCEPなど、複数の国が参加する枠組みで、参加国すべての材料を合算できます。
- 戦略的活用: RCEPの場合: これまで「非原産」だった中国や韓国の材料を「域内材料」としてカウントできるようになったため、VA基準の合格率が劇的に上がりました。
- 日ASEANの場合: タイの樹脂、ベトナムの電子部品、マレーシアのネジを日本で組み立てる際、すべて「日本産」と同じ扱いにできます。
③ 完全累積(Full Accumulation)
- 仕組み: 最も高度な累積です。「完成した原産品」だけでなく、「製造途中の付加価値(かかったコスト)」も積み上げることができます。
- 実務での差:
- 通常の累積:相手国で100%原産品になっていないと「0点」扱い。
- 完全累積:相手国で「30%分」しか加工していなくても、その「30%分」を自国の付加価値に足せる。
- 採用協定: 日EU EPA、TPP11(一部の繊維など)、日英EPAなどで採用されています。

3. 累積活用の「証明」はどうやるのか?
累積を使うためには、「その材料が仲間の国で作られた」という客観的な証拠が必須です。
- 原産地証明(CO)の入手: 海外の仕入先から「この部品は〇〇EPAの原産品です」という書類(Supplier’s Declaration)を入手します。
- トレーサビリティの確保: 輸入した時のインボイス、船荷証券(B/L)、そして工場での使用記録を紐づけて、「確かにあの輸入材料をこの製品に使った」と証明できるようにします。
4. 累積とデミニミスの「最強の組み合わせ」
実務では、累積だけで解決しない場合にデミニミスを併用します。
- 例: *ASEANの材料を「累積」で85%集めた。
- 残り15%のうち、10%分はCTCをクリアしている。
- 最後の5%分だけがどうしてもルール違反(コードが変わらない輸入ネジなど)。
- 結果: この最後の5%に「デミニミス」を適用すれば、全体として「100%原産品」という判定を勝ち取れます。
5. 実務上の注意点:EPAの「選択」ミスに注意
同じ「タイからの材料」でも、どのEPAを使うかで累積の範囲が変わります。
- 日タイEPAを使う場合: タイと日本の2国間しか見られません。
- 日ASEAN EPAを使う場合: タイ以外のASEAN諸国の材料も累積できます。
- RCEPを使う場合: さらに中国や韓国の材料も累積できます。
「どの国の材料を、どのくらい使っているか」によって、使うべきEPAを戦略的に選ぶのがプロの実務です。
まとめ:累積を使いこなすためのチェックリスト
- [ ] 使用している海外材料のHSコードと調達国は把握しているか?
- [ ] その調達国が含まれる、最も有利なEPA(累積範囲が広いもの)を選んでいるか?
- [ ] 相手国のサプライヤーから「原産品申告書」を取り寄せるルートはあるか?
- [ ] 万が一の税関調査の際、材料の入庫から製品の出庫まで追跡できるか?