このシリーズは、「原産地表記は必須なのか」「Made in を書かないといけないのか」という素朴な疑問から始まりました。いよいよその答えを出します。結論を先に言えば——日本の輸入通関では、原産地表示そのものは義務ではありません。しかし、ウソや誤認を招く表示は固く禁じられています。「書かなければならない」ではなく「間違ったことを書いてはいけない」。この違いが、経営者の運命を分けます。
フェーズ2の締めくくりとして、知的財産と表示にまつわる3つの罠——商標権侵害品の税関差止め、並行輸入の落とし穴、そして原産地・品質表示——を整理します。いずれも「知らずに踏むと、貨物が止まり、売れなくなり、行政処分を受ける」領域です。
罠1:商標権侵害品は税関で止まる
もっとも分かりやすい水際規制が、知的財産権の侵害品です。商標権・著作権・特許権・意匠権などを侵害する物品は、関税法により輸入が禁止され、税関の「水際差止め」の対象になります。権利者は税関に輸入差止申立てをしておくことができ、該当する貨物が来れば税関が止めて認定手続きに入ります。
📊 差止めの9割超は「偽ブランド」
税関の輸入差止件数のうち、商標権侵害物品が構成比94.6%と圧倒的多数を占めます(財務省・令和4年)。次いで著作権侵害の偽キャラクターグッズ。差止申立ての受理件数は716件にのぼります。「安く仕入れられたブランド品」の正体が模倣品だった、という事故はいまも大量に起きています。
悪質なケースでは、税関が警察と共同で摘発し、関税法違反で告発します。バッグ・靴・タオル・衣類などを密輸入しようとした事例が実際に告発されており、標章部分をシールで覆って隠す、他の物品の箱に隠匿するといった工作も見抜かれています。「知らずに仕入れた」としても、貨物は没収され、事業は止まります。
罠2:並行輸入は「真正品」でも侵害になりうる
ブランド品を、正規代理店を通さず海外から直接仕入れて売る「並行輸入」。これ自体は違法ではありません。本物(真正品)であれば、商標権者の許諾がなくても商標権侵害にならない、というのが確立した扱いです。ただし、それには3つの要件をすべて満たす必要があります(最高裁 平成15年2月27日判決)。
- ①適法に付された商標であること:輸入元の国の商標権者、またはその許諾を受けた者が付けた商標である。
- ②出所が同一であること:外国と日本の商標権者が同一人、または法律的・経済的に同一視できる関係にある(出所表示機能が害されていない)。
- ③品質が実質的に同一であること:日本の登録商標が保証する品質と実質的な差がない(品質保証機能が害されていない)。
⚠️ 「本物なのに侵害」が起きる瞬間
要件③が落とし穴です。たとえば、海外向けに品質仕様を変えた廉価版や、日本正規品と実質的に品質が異なる商品を輸入すると、たとえ本物でも「品質保証機能を害する」として商標権侵害にあたりえます。「安いのには理由がある」——その理由が品質差なら、並行輸入の保護から外れる可能性があるのです。
罠3:原産地・品質表示 ― シリーズ冒頭の疑問への答え
通関では「表示義務」はない。でも「偽り・誤認」は輸入不許可
関税法71条は、原産地について偽った表示、または誤認を生じさせる表示がされている外国貨物の輸入を許可しない、と定めています。ここで極めて重要なのは、これは「原産地を表示しなければならない」という義務ではない、という点です。無地で何も書いていなければ71条には触れません。問題になるのは、実際と違う原産地を思わせる表示をしたときだけです。
該当した場合、貨物は輸入が認められず、表示を消去・訂正するか、積戻し、または任意放棄を迫られます。しかもこの規制は国際条約(マドリッド協定)に対応したもので、通関後の販売時の表示にも及びます。
どんな表示が「誤認」になるのか
典型例が、原産地以外の国名・地名・国旗・図柄や、原産地に所在しない会社名・商標を表示するケースです。もっとも分かりやすいのは次の例です。
🎯 「Licensed by Japan」の罠
日本でデザインし中国で生産したアパレルに「Licensed by Japan」と表示すると、原産地が日本であると誤認させる可能性があり、関税法71条に抵触しえます。正しくは「Made in China」と表示する必要があります。日本のブランドイメージを出したい気持ちが、そのまま違反になりうるのです。
他国産の絹織物に「大島紬」と付けるように、特定地域の特産品名を原産地でない品に使うのも誤認表示です。ただし救済もあります。誤認を招く表示があっても、真正な原産地を表す明確な表示が、誤認表示と比べて妥当な大きさ・場所で併記されていれば、「誤認を生じさせる表示」としては扱われません。また、日本のホテルが外国メーカーに発注したタオルに自社(ホテル)名を入れることは、原産地の誤認には当たらないとされています。
販売段階では景表法がかかる
通関を通っても、国内で売る段階では景品表示法(景表法)が待っています。景表法5条3号に基づく告示「商品の原産国に関する不当な表示」は、一般消費者が原産国を判別しにくくなる表示を不当表示として禁じています。国産品を外国産と誤認させる表示も、外国産を国産と誤認させる表示も、どちらも規制対象です。
さらに、品質・内容について実際より著しく優良と見せる表示は優良誤認表示(景表法5条1号)として禁止されます。「本場」「高級」「特選」といった表示が実態と伴わなければ、措置命令や課徴金の対象になりえます。なお、食品や繊維製品など、品目によっては食品表示法や家庭用品品質表示法で原産地・品質の表示が義務づけられているものもあります。「通関では表示義務がない」と「販売時に表示義務がある」は両立するので、混同しないでください。
整理:原産地表示のルールを一枚で
| 場面 | ルール | 根拠 |
|---|---|---|
| 通関時(表示するか) | 表示自体は義務ではない | — |
| 通関時(何を書くか) | 偽り・誤認表示は輸入不許可 | 関税法71条 |
| 販売時(不当表示) | 原産国の誤認表示・優良誤認は禁止 | 景表法5条 |
| 販売時(品目別) | 食品・繊維等は表示義務あり | 食品表示法・家庭用品品質表示法等 |
補足:ケースマークは「法律」ではないが軽視できない
シリーズ冒頭で触れた「ケースマーク(外装の荷印)」についても整理しておきます。ケースマークは、荷主・仕向地・数量・取扱注意などを外装に示す商慣習上のもので、それ自体を義務づける一般的な法律はありません。ただし、輸出入の実務では契約やL/C(信用状)で指定されることが多く、指定どおりでないと書類不一致で決済が滞ることがあります。また、木材梱包材の消毒処理を示すマークなど、別の規制に基づく表示は法的に必要です。「マークだから法律」ではなく、何に基づくマークかを切り分けるのがポイントです。
まとめ
- 商標権等の侵害品は関税法で輸入禁止。税関差止めの9割超が偽ブランド。「知らずに仕入れた」でも没収される。
- 並行輸入は真正品なら合法だが、①適法な商標 ②出所同一 ③品質同一の3要件が必要。品質差があれば本物でも侵害になりうる。
- 原産地表示は通関時の義務ではない。ただし偽り・誤認表示は関税法71条で輸入不許可。
- 「Licensed by Japan」など原産地を誤認させる表示はNG。正しく「Made in ○○」を。
- 販売段階では景表法(原産国の不当表示・優良誤認)が、品目により食品表示法・家庭用品品質表示法の表示義務がかかる。
- ケースマークは商慣習で法的義務ではないが、契約・L/Cや別規制で必要になることがある。
フェーズ2の完結、そして次へ
これでフェーズ2「輸入後に効いてくる法務」(他法令・PL法・知財表示)が完結しました。シリーズ冒頭で掲げた原産地表記・ケースマーク・極端に安い価格という3つの疑問は、それぞれ本記事・1-3(アンダーバリュー)で回収できました。今後はフェーズ3(輸出の法務:安全保障貿易管理・原産地証明の発行)へと、売り手side・輸出者の視点に進んでいきます。
👈 前の記事:2-2 PL法と輸入者責任 — 輸入者が「製造業者」になる
関連ツール・参考リンク
📊 HSコード参考ナビ
HSコード参考ナビ:原産地規則の判定も、まずは品目のHSコード特定から始まります。📊 EPAラボ
EPAラボ:EPAの原産地規則・原産地証明の実務はこちら。輸出者としての原産地証明はフェーズ3で扱います。📊 法務ラボ(企業法務AI)
法務ラボ:表示・広告表現のコンプライアンスチェックに。
※本記事は2026年7月時点の制度に基づく一般的な解説です。商標権侵害・並行輸入・表示規制の判断は個別性が高く、最終的には裁判所や所管官庁の判断によります。具体的な事案は税関・弁護士・専門家にご確認ください。
🔍 この記事に関連する疑問は、AIに直接聞いてみる