PL法と輸入者責任

製造現場で働く人々

「うちは作っていない。海外の工場から仕入れて売っているだけだ。だから、製品事故が起きても責任を負うのはメーカーだろう」——多くの輸入事業者が、そう考えています。しかし、これは法律上、明確に間違いです。日本の製造物責任法(PL法)は、輸入した者を「製造業者等」と同列に扱い、製品の欠陥で人が傷つけば、輸入者に賠償責任を負わせます。作っていなくても、です。

前回(2-1)で、通関後に効いてくる他法令を見ました。今回はその延長線上にある、輸入者にとって最も重い立場の一つ——「輸入者が製造業者になる」というPL法の構造を解説します。海外メーカーに責任を押し付けられない、という現実を直視しましょう。


PL法とは何か ― 「過失の立証」が要らない法律

PL法(製造物責任法、1995年施行)は、製造物の欠陥によって、生命・身体・財産に損害が生じた場合、製造業者等に損害賠償責任を負わせる法律です。ポイントは、被害者の立証負担が軽いことにあります。

通常、事故で損害賠償を求めるときは、民法に従い、被害者が加害者の「過失」を立証しなければなりません。しかしPL法では、製品に欠陥があったことさえ示せれば、製造業者等の過失を立証しなくても賠償請求ができます。事実上の無過失責任に近く、それだけ事業者側の責任は重い。「うちは丁寧に検品していた」という主張は、欠陥がある以上、簡単には通らないのです。

💡 対象は「製造・加工された動産」
PL法の製造物とは、製造・加工された動産を指します。工業製品はもちろん、加工食品(缶詰・菓子・冷凍食品・食用油など)も含まれます。一方、未加工の農産物、コンピュータのプログラム、修理・配送などのサービス、不動産は対象外です。

なぜ「輸入者」が製造業者になるのか

PL法2条3項は、責任を負う「製造業者等」を次のように定めています。輸入者は、その筆頭(1号)に明記されています。

該当する者具体例
1号業として製造・加工・輸入した者メーカー、加工業者、輸入業者
2号製造業者と表示した者/誤認させる表示をした者自社ブランド名を付けた者
3号実質的な製造業者と認められる表示をした者OEM・PBの「販売者」表示で実際は製造に関与

輸入者が製造者と同等に扱われる理由は2つあります。ひとつは、欠陥のある製品を国内市場に持ち込んだ張本人であること。もうひとつは、被害者が海外メーカーを直接訴えるのは事実上困難であること。もし輸入者が責任を負わなければ、被害者は誰にも救済を求められず、法律の目的(被害者救済)が果たせません。だから、輸入者が海外メーカーに代わって責任を負う構造になっているのです。

⚠️ 「業として」なら、個人でも・無償でも対象
「業として」とは、反復継続して行うこと。法人か個人かは問いません。海外から仕入れてネットで売る個人事業も、反復継続していれば立派に「業として」の輸入です。しかも営利目的である必要すらなく、無償配布のサンプルでも対象になりえます。「小規模だから」「無料で配っただけ」は、免れる理由になりません。

ただし例外的に、単なる個人輸入の代行や通関代行など、他者の輸入行為のための名目的な輸入者にすぎない場合は、必ずしも全責任を負う主体とならないこともあります。輸入の形態によって結論が変わる部分なので、自社の立ち位置を正確に把握しておく必要があります。

二重に危ない「自社ブランド輸入」

特に注意したいのが、輸入した製品に自社のブランド名やロゴを付けて売るケースです。この場合、1号(輸入した者)に該当するだけでなく、2号・3号(製造業者と誤認させる表示をした者)にも当たり、二重に製造業者等とされます。OEMやプライベートブランド(PB)で「販売者:○○」と表示していても、実質的に製造へ関与していれば責任主体です。「自社ブランドを付けると、その瞬間から作った人と同じ責任を負う」と考えてください。

「欠陥」の3類型

欠陥とは、その製造物が通常有すべき安全性を欠いていることを指します。一般に3つの類型に整理されます。輸入者にとって重要なのは、3つ目の「指示・警告上の欠陥」です。

  • 製造上の欠陥:設計どおりに作られず、製造工程で安全性を欠いた。
  • 設計上の欠陥:設計自体に問題があり、製品全体が危険。
  • 指示・警告上の欠陥:適切な警告表示や取扱説明を欠いたために危険。

3つ目が重要なのは、輸入者の努力で防げるからです。海外製品には、日本語の警告表示や取扱説明が不十分なものが多い。危険な使い方への警告を欠いていると、それ自体が「欠陥」と判断されえます。逆に言えば、通常予見される使い方を想定した分かりやすい警告・取説を整えることが、輸入者にできる最大の自衛策のひとつなのです。

責任を免れる「抗弁」と、時効

製造業者等が一定の事実を証明できれば、責任を免れます。代表的なのが「開発危険の抗弁」です。

  • 開発危険の抗弁:製品を引き渡した時点の科学・技術の知見では、その欠陥を認識できなかったこと。
  • 部品・原材料の抗弁:完成品メーカーの設計指示に従ったために欠陥が生じ、部品側に過失がないこと。

時効にも注意が必要です。被害者が損害と賠償義務者を知った時から3年(生命・身体の侵害は5年)で請求権は時効消滅し、製品を引き渡した時から10年で権利自体が消滅します。ただし10年の起算は、蓄積して発症するような損害では症状が現れた時からとなります。

⚠️ 契約でPL責任は消せない
「当社は一切の責任を負いません」と約款に書いても、消費者に対するPL責任は回避できません。消費者が一方的に不利になる条項は消費者契約法により無効です。免責文言があるから安心、ではないのです。

経営者が取るべき備え

PL責任は100%回避することはできません。欠陥をゼロにするのは困難だからです。だからこそ、被害を小さくし、負担を分散する備えが要ります。

  • PL保険に加入する。法律上の義務ではないが、被害者への早期補償と自社防衛のための最小限の策。
  • 海外メーカーと求償・免責の特約を結ぶ。「第三者からの賠償請求に関する費用・責任は売主が負い、買主を免責する」といった条項を契約に入れておく。ただし海外メーカーに100%転嫁するのは実際には容易でない。
  • メーカーにもPL保険を掛けてもらい、保険会社名を確認しておく。万一のとき保険会社同士の折衝がスムーズになる。
  • 警告表示・取扱説明書を日本向けに整える。通常予見される使い方と危険への警告を明記。指示・警告上の欠陥を防ぐ。
  • 海外メーカーに日本のPL法の趣旨を共有する。予見される使用形態での設計、製造ミス防止、警告表示を事前にすり合わせる。

まとめ

  • PL法は、製品の欠陥で損害が出れば製造業者等に賠償責任を負わせる。過失の立証は不要(事実上の無過失責任)。
  • PL法2条3項1号で、輸入者は製造業者等に含まれる。作っていなくても責任主体。
  • 理由は、国内に危険を持ち込んだこと+海外メーカーを訴えるのが困難なこと。
  • 「業として」なら個人でも無償でも対象。ただし名目的輸入者は例外もある。
  • 自社ブランドを付けると1号+2号3号で二重に責任主体になる。
  • 免責は開発危険の抗弁など。契約や約款でPL責任は消せない。時効は3年(生命身体5年)・除斥10年。
  • 備えはPL保険、海外メーカーとの求償特約、日本向けの警告表示・取説の整備。

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次回はフェーズ2の締めくくり、「知財・表示の罠」です。商標権侵害品の税関差止め、並行輸入の真贋、景表法(優良誤認)、そして——このシリーズの出発点だった原産地表示の問題を、いよいよ正面から扱います。「Made in ○○」を巡るルールと、やってはいけない表示を整理します。

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法務ラボ:海外メーカーとの契約条項(求償・免責特約)の一般的な考え方を、出典付きで確認できます。

💰 ランデッドコスト計算機
ランデッドコスト計算機:PL保険料も、輸入コストの一部として原価に織り込む発想が大切です。

※本記事は2026年7月時点の制度に基づく一般的な解説です。製造物責任の成否や免責の判断は、最終的には裁判所が個別に判断します。具体的な事案や契約設計については、弁護士等の専門家にご相談ください。