他法令チェックリスト

書類をチェックする様子

「無事に通関できた。これでもう安心だ」——そう思った瞬間が、実はいちばん危ない。輸入のリスクは、関税を払って貨物を引き取った”後”にも待ち構えています。電気製品が火を噴いて初めて無届けが発覚する。仕入れた食品が販売できず倉庫で眠る。Wi-Fi機器を売ったら、買った人が電波法違反になる——。これらはすべて、関税法ではなく「他法令」の世界の話です。

フェーズ1では税関に正しく申告する話を扱いました。フェーズ2は視点を変え、「通関後に効いてくる法務」を見ていきます。その入口が、この他法令チェックリストです。冒頭でこのシリーズが掲げた「原産地表記は必須か」「ケースマークは要るのか」といった素朴な疑問も、ここから2-3にかけて回収していきます。


「他法令」とは何か

輸入の現場で「他法令(たほうれい)」と呼ばれるのは、関税法以外で、輸入する物に関係してくる法律の総称です。食品衛生法、薬機法、電気用品安全法、電波法、植物防疫法……数が多く、品目ごとに当たる法律が違います。やっかいなのは、これらが2つのタイプに分かれることです。

タイプ性質代表例
A:通関で止まる輸入時に許可・届出・検査が必要。クリアしないと貨物が出ない食品衛生法、植物防疫法、家畜伝染病予防法、ワシントン条約
B:通関では止まらない税関で止められないのに、販売・使用すると違法になりうる電気用品安全法(PSE)、電波法(技適)

⚠️ 本当に怖いのはタイプB
食品や植物は、通関時に検査で止まるので「気づかずに売る」ことが起きにくい。一方、電気製品や無線機器は許可制ではないため税関を素通りします。「誰にも止められなかった=適法」と勘違いし、不適合品をそのまま販売。事故が起きて初めて、無届けが遡って摘発される——これがタイプBの恐ろしさです。

品目から逆引きするチェックリスト

「自分の扱う品目はどれに当たるのか」を最初に確認してください。代表的な品目と、当たりやすい他法令の対応です。

輸入したい物当たりやすい他法令主な手続き
食品・飲料・添加物食品衛生法食品等輸入届出(検疫所)
食器・調理器具・容器包装食品衛生法食品等輸入届出
乳幼児用おもちゃ食品衛生法食品等輸入届出
野菜・果物・木材・種苗植物防疫法植物検疫(植物防疫所)
食肉・ハム・ソーセージ家畜伝染病予防法動物検疫(動物検疫所)
化粧品・医薬部外品・医療機器薬機法製造販売業許可・届出等
電化製品(電源プラグ付き)電気用品安全法(PSE)事業届出・適合義務・自主検査
Wi-Fi・Bluetooth・無線機器電波法(技適)技術基準適合証明/工事設計認証
ワニ革・象牙・希少動植物ワシントン条約(CITES)等輸出入許可・経産省承認

複数に当たることも普通です。たとえば調理用の電化製品は、電気の面でPSE、食品に触れる面で食品衛生法、無線機能があれば技適——と3つ同時に当たります。「ひとつ届け出たから大丈夫」が通用しない理由です。

主要な他法令の急所

食品衛生法 ― 輸入者が「第一義的責任」を負う

販売・営業用の食品、添加物、器具、容器包装、乳幼児用おもちゃを輸入するときは、貨物が通関する場所を管轄する検疫所に食品等輸入届出を出す義務があります(食品衛生法27条)。重要なのは、輸入食品の安全性は輸入者が第一義的に責任を負うと法律に明記されている点です。海外の製造者ではなく、あなたが責任者なのです。

届出後は検疫所が審査し、必要なら検査(モニタリング検査・検査命令など)。違反と判断されれば国内に輸入できず、積戻しか廃棄になります。検査費用は輸入者負担です。なお、食品に触れる家電(電子レンジ、炊飯器、ミキサーなど)も食品衛生法の対象になります。

電気用品安全法(PSE) ― 税関で止まらないから危ない

電源につなぐ電気製品を輸入販売するなら、PSEへの対応が必須です。輸入事業者には、技術上の基準への適合義務、輸入品の自主検査、そして検査記録の3年間保存が課されます。リスクの高い「特定電気用品」は、登録検査機関での適合性検査も必要です。

💰 事故が起きてから遡って追及される
PSEは許可制ではないため、不適合品でも税関で止まらず輸入できてしまいます。問題は事故のとき。火災の火元になれば、消防・警察・経産省が火元製品と販売者を特定します。無届け輸入販売なら罰金・懲役に加え、製品の回収命令、最大3年の輸入禁止という行政罰も。「今までこれでやってきた」は通用しません。

さらに見落とされがちなのが、使う側の責任です。たとえばPSE非対応の電線を、それと知らずに工事業者が使用すると、使用者側も1年以下の懲役または100万円以下の罰金の対象になりえます。安く売った側も「知らなかった」では済まされません。

電波法(技適) ― 売れるが、使うと違法

Wi-Fi、Bluetooth、無線機能を持つ機器は、電波法の技術基準に適合した証である技適マークがなければ、日本国内で電波を発して使うことができません。やっかいなのは、技適なし機器でも「販売」自体はできてしまう点。しかし購入者が使用した時点で電波法違反となり、使用者に1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されうる。実質的に売ってはいけない商品です。

輸入・販売事業者にも、技術基準に適合しない無線設備を流通させない努力義務が電波法上課されており、近年はネットモール事業者を含めた流通抑止の取り組みが強化されています。PSEを取得していても、Wi-FiやBluetoothの技適は別物。海外製ノートPCで「PSEは対応したがWi-Fiは台湾の認証だから大丈夫」と誤解する例が典型的な失敗です。

植物防疫法・家畜伝染病予防法 ― 通関前の検疫

野菜・果物・木材・種苗などの植物は植物防疫所で植物検疫、食肉・ハム・ソーセージなどの畜産物は動物検疫所で動物検疫を、それぞれ通関の前に受ける必要があります。病害虫や家畜伝染病の侵入を防ぐためのもので、検査をクリアしないと先に進めません。タイプAの典型です。

薬機法・ワシントン条約ほか

化粧品・医薬部外品・医療機器は薬機法の規制対象で、製造販売業の許可など別途の手続きが要ります。ワニ革・象牙・希少な動植物やその製品はワシントン条約(CITES)等により輸出入が規制され、許可や経産省の承認が必要です。このほか化審法・化管法(化学物質)、銃刀法・火薬類取締法など、品目によって当たる法令は広がります。

【2025年の重要トピック】海外事業者も規制対象に

近年の大きな制度変更として、製品安全4法(PSE・PSC・消費生活用製品など)の規制が海外事業者にも及ぶようになりました。海外事業者がPSマーク対象製品を日本の国内消費者へ直接販売する場合、国(経済産業省)への事業開始の届出が必要になっています。越境ECで日本の消費者へ直販するケースが増えたことへの対応で、「海外だから日本の規制は関係ない」という前提が崩れた、という点で重要です。

経営者が取るべき備え

  • 仕入れ前に他法令を確認する。「売れそうだから輸入」ではなく、品目から当たる法令を先に洗い出す。
  • タイプBを特に警戒する。電気・無線系は税関で止まらない。止まらない=適法、ではない。
  • 「ひとつ対応したから安心」を捨てる。PSEと技適と食品衛生法が同時に当たることがある。
  • 記録を残す。PSEの検査記録は3年保存が義務。適合を立証できれば、事故時も「使い方の問題」と切り分けられる。
  • 通関業者・専門の行政書士に相談する。他法令は難解で、品目ごとに判断が変わる。

まとめ

  • 他法令=関税法以外で輸入品に関わる法律の総称。品目ごとに当たる法律が違う。
  • タイプA(通関で止まる:食品・植物・動物検疫等)と、タイプB(止まらない:PSE・技適)。
  • 本当に怖いのはタイプB。税関を素通りし、事故で初めて遡って摘発される。
  • 食品衛生法は輸入者が第一義的責任。PSEは適合義務・自主検査・記録3年保存。
  • 技適なし無線機器は売れるが使うと違法。使用者に懲役・罰金のリスク。
  • 2025年、製品安全4法は海外事業者の国内消費者向け直販にも届出義務が及ぶように。

次の記事へ

他法令をクリアして無事に販売できたとしても、その製品で事故が起きたら誰が責任を負うのか。次回は、輸入者が国内で「製造業者」とみなされ、賠償責任を負うPL法(製造物責任法)を扱います。海外メーカーに責任を押し付けられない、という輸入者特有の重い立場を解説します。

👉 貿易法務・税務の罠 2-2:PL法と輸入者責任 — 輸入者が「製造業者」になる

👈 前の記事:1-4 HSコード分類の誤りと追徴

関連ツール・参考リンク

📊 HSコード参考ナビ
HSコード参考ナビ:他法令の該当判断は、まずHSコードでの品目特定が出発点になります。

📊 法務ラボ(企業法務AI)
法務ラボ:社内のコンプライアンス体制づくりに。

※本記事は2026年7月時点の制度に基づく一般的な解説です。他法令の該当性や手続きは品目・仕様により大きく変わり、制度改正も頻繁です。実際の輸入にあたっては、税関・各所管官庁・通関業者・専門家に必ずご確認ください。