EPA(経済連携協定)を活用して輸出入の関税を免除・軽減するためには、その製品が「原産品」であることを証明しなければなりません。その判定基準となるのが「品目別原産地規則(PSR: Product Specific Rules)」です。
本記事では、実務で特に重要なRCEP、CPTPP(TPP11)、日EU・EPAの3つの協定に焦点を当て、それぞれの特徴やルールの違いを詳しく解説します。
——————————————————————————–
1. そもそも品目別原産地規則(PSR)とは?
PSRは、産品に使用された非原産材料(他国からの輸入品など)が、協定国内で「実質的な変更」を加えられたかを判断する具体的なルールです。 主に以下の3つの基準があり、産品のHSコード(統計品目番号)ごとに適用されるルールが定められています。
• CTC(関税分類変更基準): 材料と製品のHSコードが一定桁数以上変わればOK。
• VA(付加価値基準): 域内で付加された価値(金額)が一定割合以上あればOK。
• SP(特定工程基準): 化学反応や裁断・縫製など、特定の工程を行えばOK。
2. 【協定別】主要EPAの特徴とPSRの深掘り比較
日本が締結している広域EPAの中でも、特に利用頻度の高い3つの協定について、PSRの特徴を詳しく見ていきましょう。
① RCEP(地域的な包括的経済連携協定)

15カ国が参加する巨大な経済圏であるRCEPは、「共通のルール」による利便性が最大の特徴です。
• 選択制の多さ: 多くの品目でCTCかVA(通常RVC 40%)のいずれかを選択可能です。
• 衣類ルールの緩和: 繊維製品(第61・62類)のルールが「CC(類変更)」となっており、他協定に比べて基準が緩やかです。
• HS2012基準: 現在のPSRはHS2012年版に基づいて記載されています。
• 材料累積: 域内の他国の原産材料を自国原産としてカウントできる「モノの累積」が認められています。
② CPTPP(TPP11)

アジア太平洋地域の12カ国が参加する高度な協定で、繊維や自動車において独自の厳しい基準があります。
• ヤーンフォワード・ルール: 繊維製品に対し、糸の段階から域内産であることを求める厳しい基準が基本です。
• 多様なVA計算方式: 一般的な控除方式に加え、自動車関連で使われる**「純費用方式(NC)」や、特定の主要材料のみを見る「重点価額方式」**などが選べます。
• HS2012基準: PSRの判定はHS2012年版に基づきます。
• 完全累積: 他国で行われた「生産行為(加工工程)」そのものを累積できるのが特徴です。
③ 日EU・EPA

日本と欧州という巨大市場を結ぶ協定で、VAの計算方式や自動車の特例に独自性があります。
• MaxNOM方式の採用: 付加価値基準において、非原産材料の割合が一定以下であることを求める「MaxNOM方式」が広く採用されています。
• 自動車のステージング: 完成車や部品に対し、段階的に原産地基準を厳しくしていく猶予期間が設けられています。
• HS2017基準: 他の2協定と異なり、HS2017年版をベースにPSRが組まれています。
3. 主要3協定の比較まとめ表
実務で迷わないために、重要なポイントを一覧表にまとめました。
| 項目 | RCEP | CPTPP | 日EU・EPA |
|---|---|---|---|
| 基準HS年版 | HS2012 | HS2012 | HS2017 |
| VA(付加価値) | RVC(控除・積上げ) | RVC、重点価額、純費用 | RVC、MaxNOM |
| 累積の範囲 | 材料累積のみ | 完全累積(工程合算可) | 完全累積(工程合算可) |
| 繊維製品基準 | CC(緩やか) | ヤーンフォワード(厳しい) | 二工程ルール等 |
| 証明制度 | 第三者/認定輸出者/自己申告 | 自己申告のみ | 自己申告のみ |
4. 判定を間違えないための「実務の注意点」
適切なHS年版を確認する
EPAのPSRを調べる際は、「現在のHSコード」ではなく「各協定が定めた年版のHSコード」で判定する必要があります。例えば、RCEPで判定するならHS2012年版への読み替えが必要です。
救済規定の活用
基準をわずかに満たさない場合でも、以下のルールで「原産品」と認められる可能性があります。
• 僅少ルール(De Minimis): 非原産材料がFOB価格の10%以下なら無視できる。
• ロールアップ規定: 原産材料となった中間部品に含まれる非原産材料を「ゼロ」とみなす。
5. 正確なPSRを調べる方法
特定の商品のPSRを正確に知りたい場合は、税関の「EPA・原産地規則ポータル」を活用するのが最も確実です。
1. 「品目別原産地規則(PSR)の検索」にアクセス。
2. 調べたい協定と、製品のHSコードを入力。
3. 表示された具体的な要件(CTCやRVC%など)を確認。
——————————————————————————–
参考資料:
• 税関「EPA・原産地規則ポータル」
• JETRO「RCEP協定解説書」「日EU・EPA解説書」
• 東京共同トレード・コンプライアンス「はじめてのEPAガイド」