海外の輸出者と契約を結び、インコタームズ(費用・リスク負担の境界)を決定した瞬間から、実務のリレーが始まります。このページでは、輸入者の作業範囲が最も広いEXW(工場渡し)を基準に、商品が手元に届くまでの全工程を解説します。
なぜEXWを基準にするのか。それは、EXWの全工程さえ理解すれば、FOB・CIF・DDPは「どこからが輸出者の担当になるか」の引き算で理解できるからです。各ステップで「この条件なら、ここは輸出者がやってくれる」という境界線を示していきます。
💡 近年EXWが増えている背景: 中国をはじめとするサプライヤーが、輸出に伴う増値税還付の手続きや輸出通関の責任を負いたくない、あるいは工場出荷時点で取引を完結させたい、という理由からEXWを提示するケースが増えています。「安く見える」EXW価格には、輸出国側の作業コストが一切含まれていない点に注意が必要です。
全体像:どこまでが「自社の仕事」か
まず、条件ごとに輸入者(あなた)の担当範囲がどう変わるかを俯瞰します。
| 工程 | EXW | FOB | CIF | DDP |
|---|---|---|---|---|
| 輸出国の内陸輸送 | 🔴自社 | 輸出者 | 輸出者 | 輸出者 |
| 輸出通関 | 🔴自社 | 輸出者 | 輸出者 | 輸出者 |
| 海上ブッキング | 🔴自社 | 🔴自社 | 輸出者 | 輸出者 |
| 海上運賃 | 🔴自社 | 🔴自社 | 輸出者 | 輸出者 |
| 海上保険 | 🔴自社 | 🔴自社 | 輸出者 | 輸出者 |
| 日本側の輸入通関 | 🔴自社 | 🔴自社 | 🔴自社 | 輸出者 |
| 関税・消費税の納付 | 🔴自社 | 🔴自社 | 🔴自社 | 輸出者 |
| 国内配送 | 🔴自社 | 🔴自社 | 🔴自社 | 輸出者 |
🔴が「自社(輸入者)の担当」です。EXWは全部が自社、DDPはほぼ輸出者。この表の「どこで🔴が始まるか」を意識しながら、以下の各ステップを読んでください。
ステップ1. 輸出国内での手配(EXW最大の関門)
EXWでは、商品は「工場の出荷ドック」に置かれた状態が出発点です。そこから先、輸出港で船に積むまでの輸出国内の作業は、すべて輸入者の責任になります。ここがFOB以降との最大の違いです。
- 工場ピックアップ・内陸輸送: 工場から輸出港まで、現地のトラックを手配して貨物を運びます。
- 輸出通関: 現地の税関へ輸出申告を行います。輸出者名義での申告が必要なため、輸出者の協力(インボイス・委任状等)が不可欠です。
- コンテナ詰め(バンニング): 港のCFSや指定倉庫でコンテナに積み込みます。
現地手配は「誰が」やるのか:実務の2パターン
輸入者自身が現地の業者を直接動かすのは現実的でないため、実務では次のいずれかで手配します。
- パターンA:日本側フォワーダーの現地提携先に一括依頼
日本のフォワーダーに「EXWで引き取りからお願いします」と頼むと、提携する現地代理店が工場ピックアップ・輸出通関・バンニングまで一貫対応してくれます。窓口が日本語で一本化でき、最も手間が少ない方法です。 - パターンB:現地フォワーダーを輸入者が直接手配
コストを抑えたい場合や、特定の現地業者と関係がある場合は、輸入者が現地フォワーダーと直接契約します。安価になりやすい反面、現地とのやり取り(多くは英語・中国語)と、トラブル時の対応を自社で負う必要があります。
⚠️ EXWの落とし穴: 輸出通関は本来「輸出者」が行うのが原則です。EXWで輸入者側が手配する場合でも、現地の輸出申告名義は輸出者になるため、輸出者が非協力的だと通関が進まないことがあります。契約段階で「輸出通関への協力義務」を明記しておくのが安全です。

👉 フォワーダーの選び方や見積書の読み方は 2-2 フォワーダーの選定と付き合い方 で解説しています。
📌 FOB以降を選んだ場合: このステップ1は丸ごと輸出者の担当です。輸入者は次のステップ2から関与します。
ステップ2. 海上輸送のブッキングと出港
船の「枠」を確保し、貨物を船に載せるフェーズです。
- ブッキング: フォワーダーを通じて船腹(スペース)を予約します。EXW・FOBでは輸入者が、CIF・DDPでは輸出者が手配します。
- 海上保険の付保: EXW・FOBでは輸入者が保険をかけます。EXWの場合、工場出荷時点から保険を始めないと、内陸輸送中の事故が補償されません。
- 積み込みとB/L発行: 貨物が船に積み込まれると、貨物の引換券であり所有権を表すB/L(船荷証券)が発行されます。
📌 CIF・DDPを選んだ場合: ブッキングも保険も輸出者の担当です。ただしCIFでは、輸出者がかける保険が最低限(ICC(C))のことが多く、補償範囲の確認が必要です。詳細は 2-4 貨物海上保険 を参照してください。

ステップ3. 国際輸送と到着通知(A/N)
貨物が移動している間、輸入者は「書類」を受け取り、到着に備えます。この工程はEXW・FOB・CIFで共通(DDPは輸出者対応)です。
- 書類の管理: インボイス、パッキングリスト、B/Lなどの「3種の神器」を輸出者から受領します。
- アライバル・ノーティス(A/N): 貨物が日本の港に到着する数日前、フォワーダーから「到着案内(A/N)」と「諸費用の請求書」が届きます。
- 注意点: A/Nが届いたら、すぐに納税資金の準備と国内配送の手配を始めるのが、滞留費用(デマレージ)を避けるコツです。
👉 受け取る書類の詳細は 2-3 貿易書類「3種の神器」、滞留費用の仕組みは 3-6 デマレージ・ディテンション対策 を参照してください。

ステップ4. 日本での輸入通関と納税
ここが輸入実務の「本番」です。貨物を「外国貨物」から「国内貨物」へと切り替えます。この工程はEXW・FOB・CIFで共通(DDPのみ輸出者対応)です。
- 輸入申告: フォワーダー(通関士)がNACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)を使用して、税関へ申告を行います。
- 納税(関税・消費税): 算出された税金を納付します。輸入消費税は「前払い」となるため、キャッシュフローの管理が重要です。
- 輸入許可: 税関の審査(必要に応じて現物検査)を経て許可が下りると、貨物を自由に国内で動かせるようになります。
💡 EXWと課税価格: 関税の課税標準はCIF価格が原則です。EXWで仕入れた場合、商品代金に「輸出国内輸送費・輸出通関費・海上運賃・保険料」を積み上げてCIF価格を算出する必要があります。EXWインボイスのまま申告すると課税価格が過少となり、後の事後調査で指摘されるリスクがあります。
👉 申告区分やNACCSの仕組みは 3-2 輸入申告とNACCS、課税価格への加算要素は 3-4 関税評価と加算要素 で詳しく解説しています。

ステップ5. 国内配送と納品
リレーのアンカーです。最終目的地まで安全に届けます。
- 貨物の引き取り: 輸入許可後、フォワーダーが港の保税地域から貨物を搬出します。
- 最終配送: トラック(ドレージや混載便)で、指定した倉庫やオフィスへ納品されます。
- 完了: 貨物の状態を確認し、実務リレーは無事ゴールとなります。

まとめ:EXWを制すれば、すべての条件に対応できる
EXWは輸入者の作業範囲が最も広いぶん、この全工程を理解すれば、FOB・CIF・DDPは「どこからが輸出者の担当か」を引くだけで対応できます。冒頭の一覧表を手元に置き、自社の取引条件で「どこから🔴(自社の仕事)が始まるか」を確認しながら進めてください。
次は最初の関門であるフォワーダー選定から、一つずつ実務を深掘りしていきましょう。
👉 2-2 フォワーダーの選定と付き合い方 へ進む
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