2025-2026年『海の大再編』を完全攻略

前回の記事では、海運アライアンス(同盟)が「船の巨大化レース」と「運賃大暴落」という泥沼のデスマッチを経て、3大アライアンスへと強制集約されていった歴史を解説しました。お互いの規模のメリットを維持するため、海の秩序はここ数年、一定の安定を保っていました。

しかし、2025年から2026年にかけて、この安定した枠組みが根底から覆る「地殻変動」が起きています。コロナ特需で莫大な軍資金(利益)を得たメガキャリアたちが、次の10年を生き残るためにこれまでの同盟を解消し、全く異なる新戦略へと舵を切ったためです。

この「海の大大再編」は、単なる海運業界の勢力争いではありません。インポーター(輸入者)にとっては、「選ぶ船社・アライアンスによって、納期の安定性や輸送ルートが激変する」という、実務リスクに直面することを意味します。今回は、激変した最新のアライアンス勢力図と、中小企業が取るべき航路防衛策を徹底解説します。

1. 2026年最新:新・3大アライアンスの勢力図

2025年2月を境に、これまでの枠組みは解体され、現在は以下の「新・3大アライアンス + 1強単独」という新体制へと移行しています。まずは現在の海のパワーバランスを整理しましょう。

アライアンス名主な加盟船社実務上の特徴・戦略
MSC(単独)MSC(世界1位)アライアンスを脱退。圧倒的な自社船の「数」を武器に、単独で世界を網羅。
ジェミニ (Gemini)マースク(2位)、ハパックロイド(5位)「量」より「質」。独自のハブ&スポーク網で定航率90%以上を目指す。
オーシャン (Ocean)CMA CGM(3位)、COSCO(4位)、Evergreen(7位)2032年までの提携延長を決定。現体制最大の規模と、直行便の多さが強み。
プレミア (Premier)ONE(6位)、HMM(8位)、Yang Ming(9位)旧THE Allianceの残存メンバーで新結成。MSCとも欧州航路などで一部協調。

2. 再編の核となった2大巨頭の「異なる思想」

今回の再編を主導したのは、かつて「2M」という最強同盟を組んでいた世界1位のMSCと2位のマースクです。彼らの決別と、その後の戦略の違いがそのまま現在の海運リスクを形作っています。

① 王者MSCの「数と規模」による単独スタンドアロン戦略

第3弾のトップ10データでも見た通り、シェア21%を超えるMSCは、2025年にマースクとの同盟を予定通り解消しました。彼らの戦略はシンプルです。
「自社だけで十分な船があるのだから、他社とのスケジュール調整に時間を取られるアライアンスは不要。自社の意思決定だけで柔軟に船を動かす」という単独運行(スタンドアロン)です。

圧倒的なスペース(船腹量)を持っているため、「とにかくスペースを確実に確保したい」という状況では、非常に強い選択肢となります。

② マースク × ハパックロイド「ジェミニ」の定航率(品質)への賭け

一方、MSCの物量作戦に対抗すべく、マースクがハパックロイド(ザ・アライアンスから引き抜き)と結成したのが「ジェミニ・コーポレーション(Gemini Cooperation)」です。


ジェミニが掲げたのは、これまでの海運の常識を覆す「定航率90%以上の実現」という品質重視の戦略です。

紅海危機などの地政学リスクにより、現在の主要航路の定航率は50〜60%台にまで落ち込んでいます。「予定通りに船が着かない」ことに悩むインポーターにとって、この「90%」という約束は強烈な魅力です。

しかし、この品質を維持するための独自の運行システムが、実務上の新たなリスクも生んでいます(詳細は第6弾で解説します)。

3. 日本のONEが率いる「プレミア・アライアンス」の行方

ハパックロイドがジェミニへと去ってしまったため、残されたアジア系の3社(日本のONE、韓国のHMM、台湾のYang Ming)は窮地に立たされるかと思われました。しかし彼らは即座に結束し、2025年2月から新たに「プレミア・アライアンス(Premier Alliance)」を発足させ、航路網を維持することに成功しました。

さらに、単独化を進めるMSCとも欧州航路などで一部スペースの協調(貸し借り)を行う契約を結ぶなど、しなやかな生存戦略を展開しています。アジア発のインポーターにとっては、引き続き日本のONEが主軸となるこのアライアンスが、主要な交渉選択肢の一つであり続けます。

4. 「大再編時代」に中小企業が取るべき3つの航路防衛策

アライアンスの勢力図が激変した今、インポーターが「これまでと同じフォワーダーに、これまでと同じように任せる」だけでは、予期せぬ遅延や運賃高騰に巻き込まれるリスクが高まります。実務上、すぐに実践すべき防衛策は以下の3つです。

① 既存ルートの「寄港地」と「所要日数」の再確認

アライアンスが組み替わったことで、各船社が提供する「ループ(巡回ルート)」の寄港順や寄港港が大きく変更されています。「以前は直行便で2週間で届いたのに、新体制になって中継港が挟まり、3週間かかるようになった」という事例が頻発しています。フォワーダーに対し、現在の最新スケジュール(Transit Time)を出し直させましょう。

② 単一アライアンスへの「依存リスク」の分散

例えば、自社の全輸入貨物を「オーシャン・アライアンス」に属する船社(CMA CGMやEvergreenなど)だけに依存していた場合、そのアライアンスの航路で遅延が発生すると、自社のサプライチェーンが完全にストップします。リスク分散のため、例えば「プレミア所属のONE」と「オーシャン所属のCOSCO」のように、異なるアライアンスの船社を選択肢として持っておく(フォワーダーに使い分けてもらう)ことが鉄則です。

③ 船社の「戦略」と貨物の「特性」のマッチング

自社の貨物が「とにかく納期厳守(在庫に余裕がない)」であれば、定航率を高めるジェミニ(マースク等)のルートを優先的にテストする価値があります。逆に、「納期には猶予があるから、とにかくコストとスペースの安定性が最優先」であれば、規模の大きいオーシャンやMSCを選択する、といった船社の新戦略に合わせた使い分けが必要です。

まとめ:常識をリセットし、フォワーダーの提案を見極める

海運アライアンスの大再編により、世界の海上物流は「数のMSC」「質のジェミニ」「規模のオーシャン」「アジアの結束プレミア」という、各グループの個性が尖った時代へと突入しました。

インポーターとして重要なのは、「去年までの安定ルートは、もう存在しないかもしれない」という前提で、常識を一度リセットすることです。そして、フォワーダーから見積もりやルート提案を受けた際に、「これは新体制のどのアライアンスのループですか?」と一歩踏み込んで問いかけられる知識を持つことです。

さて、防衛策の2番目で触れた、ジェミニが推進する「定航率90%以上」の裏側には、『ハブ&スポーク(シャトル便)』という、これまでの直行便とは全く異なる輸送モードが採用されています。これが実務にどのようなメリットと、隠されたリスクをもたらすのでしょうか。

次回第6弾では、これからの航路選定の最大の争点となる「シャトル便 vs 直行便」のリスクとメリットを、実務目線で徹底的に比較・検証します。