アライアンス離合集散の歴史と「巨大化レース」の罠

前回の記事では、「船主」「船会社(キャリア)」「フォワーダー」という貿易実務を動かす3大プレイヤーの仕入れ構造について解説しました。その中で、真ん中に位置する船会社たちがスペースをシェアし合う仕組みが「アライアンス(海運同盟)」であるとお伝えしました。

ニュースや実務の現場を見ていると、「〇〇アライアンスが解散した」「新しく〇〇同盟が結成された」といった、同盟の組み替えの話題が定期的に耳に入ってきます。「せっかく覚えたのに、なぜ海の同盟はこれほど頻繁にくっついたり離れたり(離合集散)を繰り返すのか?」と疑問に思う方も多いはずです。

実は、海運アライアンスの歴史は、血で血を洗うような過酷な「サバイバルデスマッチ」の歴史そのものです。そこには、メガキャリアたちが巻き込まれた『船の巨大化レース』と、それに伴う『運賃大暴落』という構造的な罠が隠されています。今回は、2025年からの大再編を正しく読み解くために不可欠な、アライアンス離合集散の歴史とメカニズムを解説します。

1. すべての元凶は「船の巨大化レース」という底なし沼

2008年に運賃カルテル(談合)が禁止されて以降、船会社たちが生き残るために突き進んだのが「コンテナ船の巨大化」でした。これが、その後の激動の歴史のすべての引き金となります。

「規模の経済(スケールメリット)」の誘惑

なぜ船会社は競って船を大きくしたのでしょうか。理由は非常にシンプルで、「一度に大量に運んだ方が、コンテナ1個あたりのコスト(燃費や人件費)が劇的に安くなるから」です。

1隻で5,000個運べる船を2隻走らせるよりも、1隻で10,000個運べる超大型船を1隻走らせた方が、燃料代も船員の給料も大幅に節約できます。コスト競争に勝つためには、ライバルよりも大きな船を持つことが絶対条件となったのです。これにより、世界中の海運大手がこぞって超大型船を発注する「巨船化レース」が勃発しました。

2. 「巨大化」が招いた、スペース過剰と運賃大暴落の罠

しかし、この巨大化レースには致命的な「落とし穴」がありました。それが「供給過剰(スペースが余りまくる)」という罠です。

巨大な船は「満載」にできなければ地獄の赤字

第2弾で解説した通り、コンテナ船ビジネスは典型的な「装置産業」です。いくら1個あたりのコストが安い超大型船を作っても、荷物が集まらずにガラガラの状態で走らせれば、莫大な固定費(建造費や維持費)が重くのしかかり、一瞬で巨額の赤字に転落します。

皮肉なことに、すべての船会社が同時に船を巨大化させたため、世界の海の上には「運びたい荷物の量」に対して、「船のスペース(供給量)」が圧倒的に過剰な状態が生まれました。スペースが余れば、次に何が起きるか。凄惨な「運賃の値下げ競争(価格破壊)」です。

2010年代半ばには、アジアから欧州までコンテナ1個を運ぶ運賃が「数百ドル」という、運べば運ぶほど赤字になるレベルまで大暴落しました。これが、海運歴史上に残る「暗黒の泥沼デスマッチ」です。

3. 破綻、吸収、そして「3大アライアンス」への強制集約

単独では巨額の赤字に耐えきれなくなった船会社たちは、文字通り「生き残り」をかけて、合体と解散、そしてアライアンスの再編を繰り返すことになります。

激動の歴史を象徴する2つの大事件

この過酷なデスマッチの中で、日本のインポーターにも大きな影響を与えた歴史的な大事件が2つあります。

① 韓国・韓進海運(ハンジン)の破綻(2016年)

当時世界7位だった名門船社、韓進海運が運賃暴落に耐えかねて経営破綻しました。これにより、同社が加盟していたアライアンスは崩壊。海の上の貨物が差し押さえられるなど、世界中のサプライチェーンが大混乱に陥りました。「大企業でもアライアンスを組んでいても、潰れるときは潰れる」という強烈な教訓を業界に植え付けました。

② 日本の大手3社統合による「ONE」の誕生(2018年)

日本の3大海運大名であった「日本郵船(NYK)」「商船三井(MOL)」「川崎汽船(K-LINE)」も、単独ではメガキャリアの規模の殴り合いに対抗できなくなっていました。そこで3社はコンテナ船事業を切り離し、一つの新会社「ONE(Ocean Network Express)」として統合したのです。日の丸連合として規模を拡大しなければ、生き残れない時代になった証拠でした。

たどり着いた「3大アライアンス」のパワーバランス

こうして多くの脱落者や合併を経て、世界の海は2010年代末までに、以下の「3大アライアンス」へと強制的に集約・整理されました。これによって、ようやく不毛な価格競争が終わり、海の上の需給バランスと運賃が一時的に安定したのです。

  • 2M(ツーエム): マースク、MSCの2強連合
  • OCEAN Alliance(オーシャン): CMA CGM、COSCO、Evergreenなどの最大規模連合
  • THE Alliance(ザ・アライアンス): ONE、ハパックロイド、HMM、Yang Mingの連合

まとめ:なぜ、また2025年に離合集散するのか?

ここまで読んでいただければ、海運アライアンスがくっついたり離れたりする本質的な理由が分かります。

「環境の変化によって、お互いの『規模のメリット』や『戦略』の利害が一致しなくなったとき、同盟は必ず組み替えられる」

3大アライアンスへの集約によって、海の秩序は10年近く保たれていました。しかし、2020年からのコロナ禍による「特需(空前の大儲け)」によって、各船会社の手元には天文学的な利益(軍資金)が残りました。資金力を得た彼らは、再び「次の10年で生き残るための新しい単独戦略・投資」を始めたのです。

その結果、お互いの利害関係がズレ始め、ついに始まったのが、次回解説する「2025-2026年:海の大再編」です。

次回第5弾では、この歴史を踏まえ、なぜ王者MSCが同盟を飛び出したのか、そして新同盟「ジェミニ」が目指す新しい海のルールとは何なのか、最新の勢力図を完全攻略します。


【参考情報】世界の大手コンテナ船社トップ10(2026年最新)

世界の海上コンテナ物流の約8割超は、以下の「メガキャリア」と呼ばれる上位10社によって動かされています。フォワーダーから提示される見積書に登場する船社が、どのくらいの規模で、どのアライアンスに属しているのかの目安としてご活用ください。

順位 船社名(通称) 本拠地 運航船腹量
(万TEU)
保有隻数 世界シェア 所属アライアンス
(2025-2026年以降)
1 MSC スイス 732 1,001隻 21.6% 単独運行(スタンドアロン)
※プレミア等と一部協調
2 Maersk(マースク) デンマーク 467 739隻 13.8% ジェミニ・コーポレーション
3 CMA CGM フランス 431 724隻 12.7% オーシャン・アライアンス
4 COSCO(コスコ) 中国 359 559隻 10.6% オーシャン・アライアンス
5 Hapag-Lloyd(ハパックロイド) ドイツ 239 258隻 7.1% ジェミニ・コーポレーション
6 ONE(オーシャン・ネットワーク・エクスプレス) 日本/シンガポール 214 231隻 6.3% プレミア・アライアンス
7 Evergreen(エバーグリーン) 台湾 198 217隻 5.9% オーシャン・アライアンス
8 HMM(エイチエムエム) 韓国 102 75隻 3.0% プレミア・アライアンス
9 Yang Ming(陽明海運) 台湾 74 96隻 2.2% プレミア・アライアンス
10 ZIM(ジム) イスラエル 69 131隻 2.1% 独立系
※主要航路で他社とスポット協調

※運航船腹量および隻数はAlphaliner統計データを基にした目安数値です。「TEU」は20フィートコンテナ1個換算の単位。